地球視点で「働く」「暮らす」を内省する、屋久島リトリート。1000年先に想いを馳せて、今を生きる。

「屋久島にいると、自然を無視できない」

「この島は、私たちが地球の中に住んでいることを実感させてくれる」

この言葉を聞いたのは、島に降り立ったその日の夜のことでした。

旅の拠点、宮之浦地区にある素泊まり民宿「晴耕雨読」には、全国から旅人が集まり、夜な夜な愉快な会話が育まれています。今回はビジネスリトリートの体験と取材でこの地にやってきた私も、すぐにその場の雰囲気に打ち解けることができました。

晴耕雨読のオーナーである三郎さんの生歌を朝も夜も堪能しました。

「島のことを記事に書いて欲しいな」

お酒を飲みながら、こんなリクエストまでいただいて。自然の循環と共生をこの島で体感し、そこから得た「豊かに働くとは、暮らすとは?」を、自分なりにまとめてみたいと思います。

Contents

念願叶って、島に呼ばれる

私自身、インタビューライターとして5000人以上を取材し、自転車で47都道府県を全てを仕事をしながら走ったり、自然が大好きなので大小さまざまな島にも旅や出張で訪れました。

そんな“風”のように日本を縦横無尽に駆け回ってきた人ですが、屋久島には「いつか行きたい」と、想いだけが募るばかりできっかけがなかなか訪れず。

ここは呼ばれるタイミングで呼ばれる島なのかもしれません。

今回、たまたまご縁があって、屋久島でリトリート(※1)を主宰しているスーさんからお誘いがあり、出張も兼ねて伺うことに。

2002年から30回以上屋久島に通う、スーさんことFUTURE SPIRAL代表取締役 山原 すすむさん
リトリート中は、音楽も♪
※1 リトリートとは
数日の間、日常から離れた環境に身を置き、いつもと違った体験を楽しむことを指します。 心身の回復を図るため、旅先の観光地を楽しむというよりは、自分自身に意識を向け、ゆったりとした時間を過ごすのが一般的です。

今回の屋久島リトリートについての詳細はこちらでも詳しく紹介しています。

時期は、9月末。秋晴れの空へのフライトです。

プロペラ機の窓から噴煙をあげる桜島を見下ろしながら、鹿児島空港から屋久島空港まで約40分ほどで到着しました。

1993年、日本ではじめて世界自然遺産に登録された屋久島。(秋田県北西部と青森県南西部にまたがる白神山地とともに)

周囲約130kmの中に、1000m級の山が40座以上連なる「洋上のアルプス」とも称され、樹齢1000年以上の巨大な杉が多く生育していることでも有名です。

念願が叶った5日間程の滞在中は、推定樹齢7200年ともいわれる縄文杉も、ジブリ映画のモチーフになったとも言われる白谷雲水峡も、落差88mの迫力がある大川の滝にも……立ち寄ってはいません。

それでも想像通り、いや想像以上に魅力的な場所で、観光だけではない島のめぐみをたくさんいただきました。

山10日、海10日、里10日

現地到着2日目に訪れたのが、”心に自然を宿す”をコンセプトにした宿泊体験ができる「モスオーシャンハウス(moss ocean house )」。

海に面した高台にあり、気持ちの良い風を浴びると、海と空に優しく抱かれるような感覚に浸れる場所でした。

事前に写真で見ていた素晴らしい風景も……

視覚だけではなく、土や草の匂い波の音などから聴覚や嗅覚も刺激されます。

芝生にゴロンと横たわったり流木を拾ったときの触覚も、朝と夜のとっておきのご飯で味覚も刺激されて、まさに五感が喜んでいるのがわかる体験。

森川海が手を伸ばせば届くところにある屋久島は、「山10日、海10日、里10日」と形容されています。あるときは海で漁師をしたり、あるときは山師として森に入る、あるときは里で畑を耕すような生活の営みがあると同時に、旅人にとっても島全体が遊びと学びの場であることも、ここの魅力ではないでしょうか。

moss ocean houseのオーナーである今村さんから、山と海と里の関係性を豊かにする「流域プロジェクト」の取り組みをお聞きし、自然と人が住む場所のより良い関係性に想いを馳せながら過ごすことができました。

いつでもどこでもおいしい水が飲める屋久島に感動し、23歳のときに就職した仕事をやめ「自然の中で生きる力を身につけよう」と屋久島に移住した今村さん。

今回のリトリートで滞在した「モスオーシャンハウス」や、実験的宿泊施設「Sumu Yakushima」の運営、自然ガイド業などを通じて、流域コミュニティの再生から地球を再生することを目的に活動している今村さん。

実験的宿泊施設「Sumu Yakushima」のコンセプトを聞いてから、見学もさせていただく機会をいただき、とても知的好奇心が刺激されました。

【Sumu Yakushimaの3つのコンセプト】

  • 土中の環境をデザインする
  • 風と水の通り道を読み、整える
  • 建築を通して自然と関わり続ける

“人と自然の調和に基づく、森のように呼吸する場所”がテーマの、この場所。

以下、HPより:
サイト内の建物は、生態系に配慮し、人と自然の調和を模索して設計されています。基礎構造は日本で古くから伝わる土木工法を採用し、周囲の植生に働きかけ、土中環境が成熟することで地盤を安定・強化させる方式です。また、建物は最新のテクノロジーにより、オフグリット、高気密、高断熱の省エネ設計を基本としています。地元材を使用することで土地の風景を育み、その場の環境と呼応し続けます。こうして建物が森のように呼吸することで、サイト全体が循環しやすい空間となり、流域一帯の一部として正しく機能します。
旅先での自然やコミュニティへのエンゲージメントがイノベーションに繋がる新しい時代、小さな種がいつの日か大きな木になる可能性がSumuにはあります。

ここで、これからの生き方を考えたり、新しいビジネスのアイデアの種を育てたいと感じるような素敵な施設でした。

海の大きさ、川の清らかさ

崖の上に立つモスオーシャンハウス 。下まで降りると、大きな大きな海が広がっています。

「この海を真っ直ぐ進むと南米大陸に着きます。途中、何もないんですよ」

そんな話を聞いて海を眺めると、地球の大きさを感じずにはいられない場所でした。

大きな岩がゴロンゴロンと転がる場所は、川と海との交差点。きっと、山奥の川上から海までたどり着いた岩は、角がとれてまん丸でかわいい形でした。

海が温められてできた雲が、森に雨を降らせ、土を通じて流れ出た養分が川を通って海に注がれ、豊かな生態系を育む海を作る……そんなサイクルが生まれる営みを想像し、人間社会にどのように応用できるか内省するとっておきの時間も味わえました。

個人的な問いとして、利己ではなく利他の目標を考えていたタイミングだったので、とても大切なヒントを自然の循環の仕組みからいただきました。

そんな気持ちに満たされているときのご飯も格別。

屋久島滞在中はたくさんの地元の食材をいただきましたが、モスオーシャンハウス 料理人、齊藤 拓蔵さんの手がける料理は全てにストーリーを感じることができとても印象的でした。この島で採れるもの、旬なものを活かして作っていることと、作り手のひと工夫がそう感じさせるのだろう。

拓蔵さんも、埼玉からこの地に移住した人。「理科の授業で習ったことは、全てこの島でおこる」と話すように、風や雨などの様々な自然現象と向き合う中で、働くことは暮らすことだという価値観へ変わったと語っていたのが印象的でした。

あいさつして森に入る

屋久島滞在中は、何回か森へ。

最初はリトリートのプログラムとして。

「足音を立てないように歩いてみる」足の裏で土や落ち葉を感じながら、そっと歩いてみたり、多様な生態系が生きられる森の土は発酵しているという話を聞いたり、苔がびっしりつき木がまとわりつく岩を見て長い時間をかけて今があることを感じたり……。

”ありがとうございます” 

印象に残ったのは、まず森に敬意を持って挨拶してから入ること。もちろん、出るときにも感謝を伝えてから。こういった姿勢からも、自然と共に生きる島なんだなと感じます。

「人が森に入ることは、森の中に空気(風)を届ける役割を与えてくれる」という言葉を聞いて、人が関わることで多様な生態系が息づく森が育まれていくことも教えていただきました。

次の日は、初日に泊まった民宿「晴耕雨読」で出会った山下大明さん、今村さん、そしてスーさんと一緒にさらに深い森に入りました。

山下さんは、屋久島の森を独自の視点で撮影し続けてきた写真家で、若い頃はわずかな食料を持って何日も山にこもり撮影をしていたこともあるそうです。何冊か写真集も出されていて、1992年に出版した初の単独写真集『樹よ。』(小学館)を拝読させていただき、とても感銘を受けました。

「多様な生物のいる森は10年や20年では作れない。150年以上かけて育んでいくもの」「世界自然遺産に指定されている地域は、屋久島全土の20%程度。このエリアを拡大し、次世代にこの森を残すのが目標」と、優しい口調で話す山下さん。

危機感を覚えながら今できることに向き合うと同時に、屋久島の自然への愛を感じることができました。

また、森の中を歩くだけではなく、1時間ほど同じ場所で観察を続け、ときには地面にはいつくばって、ルーペを持ち出さないと見えない小さな植物の営みを見つめていました。

光合成せずに菌類から栄養を得て生活する「菌従属栄養植物」の説明をたくさんしていただきましたが、あまりにも未知な世界ですぐに理解ができたわけではありません。それでも。新たな自然の営みに触れ、感動を覚えましたし、夜は光る森になるという話にも興奮しました。

「足下の落ち葉や枯れ枝が光を放ち、見えない存在が見えてくる。多くのいのちと共にあったのだと気づく」山下さんの写真集「月の森」より

「ただいま」「おかえり」が生まれる旅

今回の屋久島旅では、自然の中に浸っていたので、あまり町を観光する時間を作っていませんでした。

そんな中でも、とても素敵だなと思ったのが、島の人々の雰囲気。島内に24ある集落は独特の歴史や文化が形成されているそうで、南部と北部を行ったり来たりした中で少し立ち寄っただけでも、それぞれの個性を感じました。

今回、屋久島リトリートを主宰しているスーさんのご紹介で会った島の人々は、「ただいま」と言えば、「おかえり」と返ってくる。そんな人ばかりだったので、今度はゆっくり訪れて、一人ひとりとの時間を味わいたいなと感じました。

屋久島ノマドカフェ「nomado cafe」の竜二さん
島の香り専門店。「やわら香」の優子さん
「屋久島大学」の裕子さん。店番をしている「椿商店」でも挨拶させていただきました。
「tamacafe」のたまよさん
晴耕雨読では、宿泊客と一緒にスーさんのピアノで即興の音楽祭が夜な夜な開催されていました。

最後に……とても印象に残ったのが、島のいたる所で出会った【屋久島憲章】。

これは、屋久島が世界自然遺産として登録された1993年に、当時の上屋久町と屋久町の町議会によって、貴重な自然を生かした地域づくりとそれを保全することを目標として制定されたものとのこと。

帰りの空港でも、この言葉が書かれたポスターを見て、少しだけこの島の価値観が身体に染み込んだ自分がいることに気づきました。

短い滞在だったので、もちろんほんの少しだけですが、これからも島と関わり続けることで、より想いに共鳴共振していくんだろうなと感じる言葉でした。いつでもどこでもおいしい水が飲める島に、また、来ます。

【屋久島憲章】

1.わたくしたちは、島づくりの指標として、いつでもどこでもおいしい水が飲め、人々が感動を得られるような、水環境の保全と創造につとめ、そのことによって屋久島の価値を問いつづけます。

2.わたくしたちは、自然とのかかわりかたを身につけた子供たちが、夢と希望を抱き世界の子供たちにとって憧れであるような豊かな地域社会をつくります。 

3.わたくしたちは、歴史と伝統を大切にし、自然資源と環境の恵みを活かし、その価値を損なうことのない、永続できる島づくりを進めます。

4.わたくしたちは、自然と人間が共生する豊かで個性的な情報を提供し、全世界の人々と交流を深めます。

めぐり、つながる。

働くと、暮らす。

その距離が離れていると感じることが、都会では時々あります。

忙しく働きすぎて暮らしが雑になったり、生活と仕事に重なりあうような豊かな人間関係を築くのが難しかったり。

集落で困っている人がいれば助け合ったり、海に出て魚をとり畑の野菜と交換したり、台風が来たら力を合わせて備えたりといった、島での生活でおこるようなことはあまりありません。

もちろん、都会との対比で良い悪いではなく、想いを持って生きていれば、どこであろうと自分にあった働くと暮らすが見つかるはずです。今回は、その距離をととのえるきっかけを得ることができました。

私自身の、これから。

旅を好む人として、地方と都会、自然とテクノロジー、大人と子どもなど、対比構造となりがちなエリアや分野を風のように移動し、つなぎ、関係をととのえるハブのような役割を担っていきたい。関わる人の心が発酵し、動き出す起点になるような。

屋久島は何千年と続く地球の営みを感じる場所です。一度視野を大きく広げ「1000年先に何を残す?」という問いを心に投げかけながら、今日という日を生きたいと思いました。

この記事も、皆さんが屋久島を知るきっかけにしていただきたいのと同時に、自身の生き方に自然から得る学びを循環させていくヒントになれば嬉しいなと思い書いてみました。

おわり。

 

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