コメンテーターにディレクターにバー経営まで! カメレオンライター・栗田真二郎さんに聞いた「地方でライターが生き残る術」

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東京で擦り減った心に“トキメキ”を注入すべく、福岡県柳川市の移住体験に訪れた「恋する旅ライターかおり」です。移住体験記はこちらから。福岡は何を食べても美味しいし、東京に比べて生活費もグッと落ちるし、海も山も都心のすぐそばにある。

「もしかすると福岡に移住すれば、幸せな暮らしに近づくかも?」

私の心にふと芽生えたそんな思い。だがしかし、何の人脈もない土地でライターとして生き残っていけるのだろうか!? そんな問いに答えてくれたのは、福岡市を拠点とするライター集団・株式会社チカラに所属する栗田真二郎さんです!

栗田さんは、クリエイティブディレクター・ブランディングライター・構成作家・コメンテーター・飲食店のゼネラルマネージャー・飲食関係のコンサルと、ライターの枠を大きく越えた多彩なキャリアを持っています。

そんな栗田さんに、これまでの経験談を踏まえ、「地方在住のフリーランスライターが生き残る術」を伺いました。

◎栗田 真二郎
1973年6月2日生まれ。福岡市南区出身。上智大学文学部史学科卒。経済誌の編集記者を経て独立。株式会社チカラでは、本名と「くりしん」を使い分け、広告、コピーライティング、著名人や経営者などの書籍制作サポートなどを担当している。またブランディングライターとして、各社のブランディングも手がける他、コメンテーターや構成作家など、多彩な顔を持つ。

Contents

地方在住ライターの生きる術⑴ がむしゃらにネットワークを広げる

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かおり
いきなりですが、栗田さんってタレント一家なんですよね? その環境がうらやましすぎます!
栗田さん
父と兄がラジオパーソナリティーなんです。確かにそのおかげでラジオパーソナリティーの仕事も、ちょこちょこいただいてますね。
かおり
福岡でフリーランスとしてライター1本で生計を立てるのって、かなり難しいんでしょうか?
栗田さん
これは地方在住ライターに限ったことではありませんが、業界の一般論として独立から10年後のフリーライターの廃業率は約8割と言われています。その主な理由は、情報誌やWebの記事はギャランティが安い。納品・発刊から数ヶ月後と支払いサイトが長いことです。それでは家族を支えていくような安定した収入源にはなりませんよね。
首都圏に住んでいても生計を立てるのが楽じゃないのに、地方在住ならなおさらです。福岡で生き残っているライターたちは、みな多かれ少なかれ東京の仕事を請け負っていますよ。僕も東京のクライアントさんから受ける仕事がかなり多いです。
かおり
8割が廃業!? それは初耳でした。地方在住ライターが居住地域の仕事だけで生計を立てるのは、そんなに難しいものなんですね。首都圏にいると仕事量は数多あるように感じるので、やっぱり地方と東京との温度差はあると思います。栗田さんは出版社でのライター経験を経て2001年に独立したあと、どうやって福岡でライターの仕事を増やしていったんですか?
栗田さん
出版社の編集さんや経営者など、がむしゃらにネットワークを広げました「1日に10人の人と名刺交換をしよう」と決めて、福岡や東京で1年半ほど実行しました。独立して会社の看板を失った途端、これまで快く取材を受けてくれた経営者たちの態度が一変したんです。つまり、取材を受けてもらえなくなった。そこから覚悟を決めて、ひたすら認知向上に努めました
かおり
シビアですね。それにしても1日に10人と名刺交換はすごい!
栗田さん
当時はSNSなんてなかったので、とにかく足を使って動いていましたよ。そうするうちに、「書いてほしい」と声をかけてもらえる機会が増えていきました。

地方在住ライターの生きる術⑵ 世間のニーズを満たすことが最優先

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株式会社チカラのオフィス内。程よく肩の力が抜けるようなナチュラルな雰囲気
かおり
栗田さんはビジネス系中心の書籍の制作サポートから、デブグルメライターと名乗ってグルメ記事も多数執筆していますよね。一番興味があるジャンルはグルメですか?
栗田さん
いえ、グルメには興味ないんです。そこにニーズがあるから。それだけの理由。僕は「書きたいことがない」んですよ。
かおり
え? そうなんですか? 私は旅や恋愛、働き方などをテーマに、「生き方の選択肢を広げ、誰もが自由なライフスタイルを選びとれる世界を創ること」を自身のコアメッセージにしているんです。栗田さんには、そういった世の中に伝えたいメッセージがないということですか?
栗田さん
僕の場合は「自分らしさと戦わない道を選んだ」ということです。一番好きなのは音楽ですが、音楽については一切執筆していません。固定概念を持たずに、ひたすら「みんなが喜ぶこと」を追求しています
かおり
私も媒体によっては完全に自分らしさを消して、客観的に書くものもあります。ただ私の場合、自分らしさを活かせる記事が一番「充実感」を得られるんです。自分の伝えたい世界観にハマる記事を書いていると、めちゃくちゃアドレナリンが出ます(笑)。それができるから、ライターはライフワークだと思えるんです。
栗田さん
僕のライフワークの物差しは「周りを笑顔にすること」です。どちらが正しいということではなくて、それは価値観の違いですよね。ただ、地方在住でライターとして生きていくには「読者のニーズを満たすこと」を最優先にしたほうが、クライアントに選ばれやすいと思います。
かおり
それはごもっともですね。

地方在住ライターの生きる術⑶ 仕事を生み出す武器を持つ

チカラでインターン中の生島江里子さんと栗田さん。親子みたいに仲良し
チカラでインターン中の生島江里子さんと栗田さん。親子みたいに仲良し
かおり
地方在住でライターとして生き残るには、東京と同じ感覚でいてはいけないとひしひしと感じています。
栗田さん
そうですね。あとは「自分で仕事を生み出せるかどうか」も、地方で生き残るための条件でしょうね。
かおり
仕事を生み出すというと……?
栗田さん
企画書を出版社に持ち込んで書籍出版につなげるとか、自分自身のオウンドメディアになるサイトを立ち上げ、そこから仕事が舞い込む仕組みを作るとか。
かおり
オウンドメディアって、ブログでもいいわけですよね?
栗田さん
ですね。書籍もブログも自分の履歴書代わりになりますから。1つのテーマを継続して書いていれば、そこからテレビやラジオのゲストに呼ばれることもありえます。流行に沿ったテーマで書いていると、より仕事につながりやすいでしょうね。
かおり
栗田さんが選んだ「グルメ」は、流行が生まれやすいですもんね。
栗田さん
僕の場合は「笑われる」「おもしろがられる」を切り口にして、グルメ記事を書いています。おいしいものを食べて、自分がどんどん太っていくという……(笑)。それをキッカケに、数百万単位のフードイベントのプロデュース依頼がきたりするんですよ。
かおり
「こうなりたい」という理想からではなく、戦略的に自分自身のブランド化を図っているわけですね。

地方在住ライターの生きる術⑷ 「コミュニケーター」として生きる

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栗田さん
もう1つ、僕が声を大にして言いたいのは、「文章を書くことだけがライターだと考えないでほしい」ということですね。地方在住で生き残るには、なおさら物書きだけでは難しいので。
かおり
やっぱり栗田さんのように複数の顔を持って、仕事の幅を広げていくべきですか?
栗田さん
僕はライター=コミュニケーターだと捉えています。コミュニケーションを円滑にする役割。だからコメンテーターも、企業のWebサイト制作も、フードイベントのプロデュースも、全部ライターの仕事の一環なんです。それぐらい広く捉えていれば、仕事はいくらでもありますよ。
かおり
複数の顔を持つことにデメリットは感じませんか?
栗田さん
僕自身は感じていません。むしろメリットだらけ。すべての仕事がコミュニケーションを円滑にすることに通じるので、総じてライターのスキルアップにつながっています。ただ若干、器用貧乏なところはありますけどね。あくまで地方で生き抜くなら、複数の顔を持つことはオススメです。
かおり
なるほど。ただ私の場合、ほぼWebライティングの案件しか受けたことがないので、他の仕事を取りにいくのが難しい気がします。
栗田さん
小林さんは自分の個性が強いし、いろいろな考えがあってこの道を選択しているわけなので、もっとできるはずですよ。まずは自分自身で、「私はコミュニケーターなんだ」と思うこと。あとは広くネットワークを作って、自分ができないことはできる人をうまく動かしていけばいいんです。
かおり
本当ですか!? すごく勇気が湧きました。

地方在住ライターの生きる術⑸ 独自性のあるインタビュアーになる

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栗田さん
今のライター=コミュニケーターという話に付随するんですが、僕は「いいライター=いいインタビュアー」だと思っています。
かおり
インタビュースキルを伸ばすことは、私個人の課題でもあります。栗田さんが考える「いいインタビュアー」ってどんな人ですか?
栗田さん
これまで相手が口にしたことがなかったコメントを引き出せる人」だと思います。相手が新しい自分を発見できるような。
かおり
それは確かに。私の経験だと国内トップのバレリーナさんのインタビューで、これまでのインタビュー記事では書かれていなかった苦悩のエピソードを深く掘り下げ、ヒットにつながったことがありました。
栗田さん
そうそう、いかに深いところまで聞けるかですよね。他のライターさんのインタビューと同じコメントじゃ、自分の価値にならない。自分のフィルターを通したことで、これまでにない独自性が生まれたら、それは「自分にしか書けない文章」ですよね
かおり
それを引き出したいと思いつつ、なかなか難しいです! 栗田さんがインタビュー前に「これだけはやっておく」ということを教えてください。
栗田さん
自分と相手の共通点を3つ探すことですね。それはアイスブレイク的な役割ですが。ファーストインプレッションがすべてなので、最初にどれだけ距離を縮めるかを大事にしています
かおり
へー! これまでにないコメントを引き出すコツはありますか?
栗田さん
過去のことは語り尽くされているので、最近のことから聞いてみるといいですよ。そこから話を展開させていく。あと成功者の方に「現在の悩み」を聞いてみるとか。どんなに成功しているように見えても、悩みは尽きないものですからね。
かおり
貴重なアドバイスありがとうございます! 次のインタビューでさっそく実践してみます!

地方を土俵に戦うことは、「自分のこだわりを捨てる覚悟」も必要。実際に現地で活躍されている栗田さんのお話を伺って、私はそんな感想を持ちました。栗田さんいわく「Webライティングの案件はたくさんあるものの、そのフィールドだけで勝負しないほうがいい」とのこと。

書籍やブログなど、自分のストックとなるものをどんどん増やす。既成概念を持たず、広い範囲で仕事を請け負う。そうやって日々自分をアップデートするなかで、自分にしか出せない“色”がにじみ出てきたとき、それが大きな価値となるのでしょう。

決して楽な道ではないけれど、福岡でもがんばれそうな希望は見えました。地方在住で思うような結果が出ずくすぶっている、またはこれから地方移住を考えているフリーライターのみなさん、ぜひ取り入れやすい方法から実践してみてください!

 

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