自分らしい働き方ってなんだろう?
そもそも、夢ばかり追いかけていては、仕事にならないのでは?
そんな風に自分を押し込めたり、迷ったりして、なかなか新しい挑戦への一歩が踏み出せない方も多いのではないでしょうか。
2018年11月6日、東京カルチャーカルチャーにて行われたイベントは、その疑問に対するヒントになるようなゲストが15人も集結。
題して『あたらしいおしごと図鑑』。
世の中にまだない職業を自分で生み出し、新しい仕事についているクリエイターが登壇し、「自分を生かした働き方とはいかに? 」を語り合いました。
ちょっとやってみたいことはあるけれど、どう形にしてよいかわからない……そんな方は本文をチェックしてみてください。
【出演した職リエイター】乙幡啓子(妄想工作家)高橋晋平(おもちゃクリエイター)やっち(恋愛アドバイザー)タムラカイ(ラクガキコーチ)赤坂大樹(合戦コンサルタント)若宮和男(複業起業家)加藤ゆかり(出張スナックのママ)田島一希(Podcastプロデューサー)中平麗華(越境フリーランス)駒木翔(ホームレスバーテンダー)三原菜央(先生の学校 主宰)柚木理雄(ゲストハウス「Little Japan」オーナー)松田然(働き方実験家)ちばまゆ(ドローンパイロット)高橋龍(job★mixer)
【司会】黒田悠介(フリーランス研究家)& 河原あず(東京カルチャーカルチャー コミュニティ・アクセラレーター) 【解説/おしごと図鑑編纂委員】村上臣(LinkedIn日本代表) |
Contents
第一部【つなぐ職クリエイター】
黒田さん:初回は「つなぐ」をテーマにして、いろんな方々をつないでいるクリエイターの方をお呼びしました。
やっちさん:恋愛アドバイザーとして活動しています。純愛伝道師と称していたのですが、のちに肩書を変更しました。恋愛アドバイザーとして、悩める人々に「本当にその人と結婚したいのか?」と問いかけ、その人のベストアンサーを導き出すサポートをしています。
また、カップル診断というものをやっておりまして、独自に男女約200名に心理テストを行い、金銭感覚や価値観など、どういった傾向があるのかを把握し、2人に合った最適なコミュニケーションをアドバイスしています。
黒田さん:心理テストで傾向を知っておけば、結婚後にもめにくくなりますね。
赤坂大樹さん:私は合戦コンサルタントとして年間150イベントをプロデュースしています。企業や自治体をスポンサーにしたイベントがメインですね。
川原さん:アクティビティーを通じた歴史体験って新しいですね。
赤坂さん:もともとは、コンビを組んでいた相方がチャンバラ合戦の生みの親だったんです。その後、小規模ではじめたところ、だんだんと事業として成り立つことがわかってきたため、後にNPOになりました。
加藤ゆかりさん:私は出張スナックのママを務めています。本業は会社員ですが、出張先などでスナックを臨時開店しています。お店や企業の交流スペースを借りてやっています。数年前には新しい事業のアイデアが世界中から集まる、サウス・バイ・サウスウエストにも参加しました。
黒田さん:あのサウス・バイ・サウスウエストですか!
加藤さん:お店では、企業の社員同士の交流の場として設けることが多いんですね。開発中のプロトタイプのお試しとか。その関係でサウス・バイ・サウスウエストには行きました。そういった試みの場でもあるので、一見さんお断りで、友人の紹介制でやっています。未発表のプロトタイプのモニターをすることもあるので、安心できる場を提供したいんです。お客さん同士で新規事業が立ち上がったりすることもあります。もちろん、企業相手とは別に普通のお客さんとお客さんをつなげてもいます。あの人にはあの人が会うなー、とか。
河原さん:紹介制であれば、身元も安心ですものね。まさにリアルティンダー。
加藤さん:相談に乗ることもありますよ。
黒田さん:それ、恋愛コンサルタントのやっちさんも参加してもらいましょう。
赤坂さん:合戦ともシナジーしましょう。合戦もファシリテーターみたいなものですから。イベントの8割はチームビルディング目的でやったりもしています。
黒田さん:企業の研修として活用できるのすね。
赤坂さん:企業で行う場合は、ルールとして無礼講ってことにしてチームとしてまとまることを目指してもらっています。チームビルディングの一環としてやっています。いい会社は社長は早く死んでくれるんですよ。忖度なしで(笑)
河原さん:みなさん人をモチベートさせる能力をお持ちですね。ハブになって人をつなげている。
ーー 3名とも、新しい人の交流や関係性を構築するタイプの、お仕事でした。人間関係が希薄になり、自然な交流が生み出されにくい現代だからこそ、こういった職業が必要とされるのだと感じました。企業としても、異業種交流などこれまでの組織から脱出した、新しいつながりがほしいというニーズがあることがうかがえます。オープンイノベーションが求められる、これからの時代に、ますます求められる役割ではないでしょうか。また、人との関りを提供するため、安全性を確保する目的で事業規模は限定的にしたり、リアルコミニケーションで仕事を進めていくことに、共通点がありました。
第二部【混ぜる職クリエイター】
タムラカイさん:落書きコーチを生業にしています。企業で正社員をしている傍ら、このような職業をはじめました。きっかけは、会社で希望ではない部署に異動命令が出たことからです。異動は辞退したかったのですが、避けられなくて。そこで自分で気づいたんです。会社の部署は自分がいなくても、まわるんだなと。そこで自分のあり方を考え直したのが一つです。
あと、個人でブログをやっていて、2013年頃には割と有名になっていたんです。でもブロガーになりたいわけではなかった。たまたまある人に絵の描き方を教えたら、すごく喜んでもらえて。それが自分にとっても楽しかったんです。絵が好きになったら、相手の人生も変えられる。それに気づいたのが大きかったですね。そこからブログでそういった活動を募集するようになって、ラクガキコーチになったという感じです。
河原さん:たしかに企業は人がいなくなっても回るようになっていますからね。若宮さんはそもそも複業可の会社を立ち上げたとか?
若宮和男さん:はい。社員全員が複業をしている会社を経営しています。
黒田さん:社員全員が?
若宮さん:女性が活躍できる社会を目指して、全員複業が雇用条件のスタートアップを作りました。複業可ではなく、複業が必須です。会社そのものはオリジナルネイルが作れるアプリの運営などをしています。
黒田さん:社員が複業していると本業への注力が薄れませんか?
若宮さん:そんなことはないですね。この制度も、もともとは男女の差異をなくしたいと思ってはじめたことだったんです。時間をかければかけるほど、つまり残業量に応じて普通の会社では評価されますよね。でも、それだと女性は評価されにくい。そもそも体力に違いがあるし、育児が入ってくるとどうしても働く時間に限界がある。でも、時間に関係なくその人が持つ力は発揮されるべきだし、評価を受けるべきです。そのためにも、固定時間と残業時間で評価される体制は変えたかったんです。
社員みんなが他のこともしていて、そこにかけられる時間が限られていて、その中で集中できる環境。そしてその時間のなかでどれだけ価値あることができたか。これで評価しています。
黒田さん:なるほど。
高橋龍さん:私は複数の業態を混ぜて、新しい仕事を生み出すことをしています。もともと、ビンテージのTシャツが好きで、仲間とTシャツのブランドを起業していました。そこで、ある映画会社がTシャツに興味を持ってくれて、最終的にはコラボすることになりました。そういったところから、周りにいる様々な業種の人のスキルや分野を組み合わせた仕事をするようになったんです。他にも、前職の仕事場(パーソナルキャリア)と一緒に、異業種での開発に取り組んでいたりします。
河原さん:何か、こういった仕事を生み出すにあたって、気をつけたほうがいいことはありますか?
タムラさん:常に油断しちゃダメってことですかね。会社員は油断できるから。危機意識を持って仕事をしてほしいです。
ーー 第二部では、混ぜるをテーマにした3名が登壇。新しい仕事のあり方を模索する3名であったと感じました。若宮さんは業務にかける時間で評価される、組織制度そのものに挑戦した意欲的な取り組みをしています。タムラさんにおいては、本業がありつつも個人としての喜びを追求した活動をしており、金銭目的ではない複業の在り方を考えさせられました。全員、何らかの企業に所属しながら、もしくはしていて、企業の殻をやぶった試みをしているのが印象的です。
第三部【創る職クリエイター】
乙幡啓子さん:妄想工作家をしております。たとえば、鳩を履くというコンセプトの鳩ヒールを作りました。
黒田さん:鳩ヒール?!
乙幡さん:はい。鳩を追いかけ回したい、鳩と仲良くなりたいと思って。
黒田さん:理解がなかなか追いつかないですね(笑)
乙幡さん:デイリーポータルZで記事にもなりました。上野公園で鳩ヒールはいて鳩を追いかけまわしましたね。鳩ヒール以外にも、足氷と言って八つ墓村のさかさまの足を作れる氷製造機を作ったりとか。あと、ホッケースというホッケの開きのようになれるペンケース作りました。作ったものはバズって、海外からの発注依頼がきたり……。
黒田さん:そこに至るまで、何をされていたんですか?
乙幡さん:30歳までは会社員をしていました。で、ナレーターになろうと思ったのですがなれなくて。派遣先で記事書いていたらライターになり、そこから細くお願いされることにこたえていったら、こういうものを作る人になりました。
高橋晋平さん:私はおもちゃクリエイターをしています。遠隔で鳩時計の鳩が出せるシステムのおもちゃを作りました。ボタンを押して、離れている家に知らせたいなと思って。離れた親に気軽に連絡できる(鳩が出ることで気持ちを伝える)手段として作りました。ほかにも、アナログのボードゲームを作りました。長年、前職バンダイではルールメイキングをしてきたので、その知識を活かしました。
今取り組んでいることは、職業診断ゲームです。遊んでいると、自分が何に向いているかわかって、職業選択に活かせるようなものにしようかと。もともと工学部ではあったのですが、人を笑わせたいという気持ちがあって、こういったことをしています。
河原さん:ゲームで向いている職業がわかるっていいですね。
田島一希さん:私はポッドキャストクリエイターをしています。ポッドキャストはWebで聴けるラジオなんですが、そこのプロデュースをしています。録音機はトランクに入っているので、即席で録音できます。ジャンルは恋愛、人事、ダイエットなどです。出版社とコラボも多いですね。編集と配信まで一括してやっています。
黒田さん:どういったきっかけでこのようなことを?
田島さん:もともとはディズニーが好きな人間で、念願かなってディズニーランドにホテルマンとして携わっていました。夢がかなってしまって、どうしようかと。あんまり働きたくないし、朝早いの嫌だな、と思って自分でできて継続できる仕事をしようと思いました。そこでイベントやシェアハウスなどを試してみた中の一つだったのがポッドキャストです。知り合いの伝手(つて)で初めて、これはいけるなと。
黒田さん:創る系の方々は、悶々する時期が必ずあるみたいですね。何かを作るという目的や目指す働き方があって、そのためにあらゆる手段を試されている感じがします。クリエイターというと、キラキラした感じがするけど、彼らは求道家みたいな印象があります。
ーー 第三部では、創るクリエイターが登場。みなさん、試行錯誤を経て現在の在り方にたどり着いた印象を受けました。目的に向かって淡々と目の前にあるものから試し、今自分ができるベストを尽くしていった結果、構築された成果だと思います。最初から正解にたどり着けなくても、徐々に自分のやりたい方向に迎えているさまは、自分のやりたいことを模索している方にとっては勇気の湧いてくる話ではないでしょうか。
第四部【旅する職クリエイター】
中平麗華さん:越境フリーランスをしています。もともと旅が好きで仕事にしたい、出張がしたいと思っていまして。現在は20業界とお仕事をして、仕事の8割は出張ですね。
4ヶ国語勉強していたこともあり、語学を活かして海外進出に困っている企業をサポートしています。言葉じゃなくて、思いを訳すことを心がけていて、国際交流の支援や、企業の商品ブランディング、マーケティングを担当しています。理想通りの働き方ができていると思いますね。
柚木理雄さん:浅草橋のゲストハウスリトルジャパンを経営しています。帰るときに友達になろうっていうのがコンセプトです。今、日本中のゲストハウスを回っていたりします。もともとは農林水産省で働いていました。
黒田さん:農林水産省?! ずいぶん固い職業につかれていたんですね。
柚木さん:はい。今の仕事ではゲストハウス経営の知見を活かして、場づくりのコンサルもしています。あと、ホステルライフということで、月に15,000円で提携の全国のホステルに泊まり放題サービスを提供しています。誰でも拠点生活ができたらどうなるのかを実際に体験できます。
松田然さん:働き方実験家という肩書きで、その名の通り働き方を実験していて……例えば旅をしながら仕事をしていたりします。実は、学生時代から自転車旅が好きだったのですが、社会人になってからはできなくなってしまって。それで、旅と仕事を両立できないかと考え、全国47都道府県の面白い働き方している人を自転車旅をしながら訪ねて取材して、記事やSNSでシェアしていました。
河原さん:結果をシェアしたあとは?
松田さん:自分でSoloProというメディアの編集長もしていて、その媒体で情報発信するだけではなく、イベントを企画したりコミュニティ活動をしたり。あと、僕は旅の中でも観光や出張の中間あたりにある「学び」のある旅をテーマにしていて、そのために働き方を変えたり、旅自体が働き方や仕事をより良くするものであったらなと思っています。
ーー 第四部では、旅をしながら働くあり方を実践する3名による対談でした。仕事というとオフィスに籠りきり、会社周辺で生活をするというライフスタイルがほとんどかもしれませんが、登壇者はそれとは大きく異なる働き方をしています。通常はただの手段にすぎない移動や出張を、ビジネスそのものにしていることが印象的でした。また、登壇者全員が心から自分の仕事スタイルを楽しんでいることが伝わってきます。
第五部【あたらしい職クリエイター】
黒田さん:すみません、ホームレスって職業ですか?
駒木翔さん:仕事ですかね。ホームレス不動産やっています。自分が路上で寝た場所の評価して、シェアしています。寝る場所を紹介して、ごはん奢ってもらったり。
基本的に物々交換で生きています。匍匐前進して富士山登りたいって人がいたら、依頼に答えてやってみたり。人気のやつは助手席で隣に座って盛り上げてほしいっていう依頼です。長期の出張やドライブの同伴者として呼ばれています。
河原さん:これが職業として、ちゃんと成り立つんですね。
ちばまゆさん:私はドローンパイロットをしています。観光のPR動画などの空撮をおこなっています。いろんなことをしている複業フリーランスとして、ドローンのスクールのWEBサイト制作をきっかけにドローンの操縦を習いました。ゲームの開発をしていたこともあり、ドローンの操縦にハマり、今では小型の機体、空撮機も合わせると5台のドローンを持っています。
三原菜央さん:先生の学校をしています。先生を対象にしたイベントの主催を請け負っています。テーマは教育現場で学べないことを学ぶことです。自分も新卒から8年間教師として働いていたのですが、教育現場のアップデートは遅いんです。環境も閉ざされているので、そこを変えたかった。転職して、事業会社で広報をしつつ、こういった活動をしています。幅広いゲストを招いて、新しい価値観や情報に触れられる場を提供しています。
黒田さん:テーマの通り、みなさん世の中にはない新しい仕事を作っていますね。ホームレスなんてまさに。
駒木さん:ホームレスは生き方そのものです。ありのままの自分で生きて生きたい。誰かのための人生が嫌でしたから。人と接するのが好きでしたし、お金よりもそういった自分の原点に返りたかったんです。
黒田さん:アメリカも人口の約50パーセントはフリーランスになる時代になりました。サンフランシスコは家賃も高いので、住居に住むことが難しい。そこでホテルに定住できるサービスも出てきています。住むという概念も今後は変わってくるでしょう。
河原さん:働くということは、自分がどう生きるかを考えることですね。
黒田さん:できることがたくさんあれば、それを必要としてくれる人が出てくるということを、今回のイベントで確かめられましたね。個人的にはAIで人類の仕事がなくなるといわれているけど、おそらく奪われるよりも増える仕事の方がずっと多いでしょう。
コミュニティがネットを通じて作りやすくなってきたから、やりたいことや共感でつながって仕事にすることができる。
河原さん:サラリーマン的ではない、対等な働き方ができる世の中になってきているのでしょう。ありがとうございました。
ーー 第五部ではホームレスという、もはや職業を超えた仕事が登場。ネット社会であるからこそ、そういった活動を支援したり、隙間的な仕事をお願いするビジネスが成り立っているようです。究極的に自分のやりたいことを突き詰めながら、生活していくことができるというのは、私たちに大きな希望を与えてくれるのではないでしょうか?
今回は東京カルチャーカルチャーで行われた『あたらしいおしごと図鑑』イベントレポをお届けしました。今後、仕事を考えるうえで何かのヒントになれば幸いです。
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