自分らしく働きたければ編集者に学べ。その心とは?【江口晋太朗×モリジュンヤ×長谷川賢人 TWDWイベントレポート】

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2016年11月に東京・渋谷で開催された、これからの時代の働き方をさまざまな切り口から考えるイベント『Tokyo Work Design Week 2016』。今回はその中から「リーダーには『編集力』が必要だ」と題されたセッションをレポートします。

登壇した3人は、いずれもいわゆる編集者。ですが、そこで繰り広げられたメッセージは、必ずしも書籍や雑誌の作り手たちに向けられたものではありません。むしろ、編集力は今後、あらゆるビジネスパーソンにとって必携のスキルになるだろうというのが、このセッションのテーマです。

ここでいう編集力とはどんなもので、それはどのような形で「はたらく」に役立つのか。3人の話から紐解いていきたいと思います。

登壇者

◎江口晋太朗
編集者/ジャーナリスト、TOKYObeta Ltd.代表取締役
編集者、ジャーナリスト。1984年生。福岡県出身。TOKYObeta Ltd.代表取締役。メディア、ジャーナリズム、情報社会の未来、ソーシャルイノベーション、参加型市民社会などをテーマに企画プロデュース、リサーチ、執筆活動などを行う。「マチノコト」共同編集、NPO法人マチノコト理事、アートを軸にしたクリエイティブプレイスメイキングのNPO法人インビジブル理事、インディーズ作家支援のNPO法人日本独立作家同盟理事などを務める。ネット選挙解禁に向けて活動した「One Voice Campaign」発起人として、キャンペーン活動を推進。Open Knowledge Japan、Code for Japanのメンバー。著書に『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)『ICTことば辞典』(三省堂)『パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治』(ミニッツブック)ほか。
◎モリジュンヤ
inquire Inc. CEO
横浜国立大学経済学部卒業後、2010年に『greenz.jp』編集部に参加。11年からフリーのライター、エディターとして『THE BRIDGE』『マチノコト』『soar』等メディアブランドの立ち上げに携わり、テクノロジー、ビジネス領域を中心に複数の媒体に寄稿。2015年に問いと探求を軸とした編集デザインファーム「inquire」を設立。メディアブランドの構築、コンテンツ戦略の立案、プロジェクトやコミュニティ、人や組織の編集などを手がける。2016年に地域におけるデジタルマーケティングを支援する「IDENTITY」を共同創業。NPO法人soar、NPO法人マチノコトの理事も務める。
◎長谷川賢人
エディター/ライター/スピーカー
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、紙の専門商社勤務を経て、編集者/ライターへ異業種転職。以降、ウェブメディア運営をはじめ、記事広告、ブランディング広告、インタビュー、イベントレポート、サービス導入事例などの制作・編集に携わる。2012年にメディアジーンに入社、「ライフハッカー[日本版]」へ配属、2014年に副編集長就任。2015年6月にクラシコム入社、「北欧、暮らしの道具店」で執筆や制作を行う。2016年9月よりフリーランスのライター/編集者に転向し、ウェブメディアを中心に複数の媒体で執筆。スピーカーとしてもイベントモデレーターやPodcastの制作を通じて活動中。

Contents

編集とは、雑誌や書籍を作ることにとどまらない

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そもそも3人のいう編集とは、どういった行為を指しているのでしょうか。まずはセッション冒頭で語られた、3人による定義を紹介しましょう。

江口さん
編集とは、たとえるなら靄のかかった暗闇に射す光。個人や社会がこれからどこに向かっていくべきなのかを照らす一筋の光のようなもの。
モリさん
編集とは、たとえばワークショップにおけるファシリテーターや科学館におけるコミュニケーターがするように、人々に分かるように共通言語化すること。翻訳者の役割に近い。
長谷川さん
編集とは、レゴブロックのようなもの。すでにあるものをどう組み合わせ、新しい価値や楽しみを見出し、生み出せるか。

3人の言う編集が、書籍や雑誌を作るという意味にとどまらないということが、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。

実際、モリさんや江口さんはもともとWebメディアや書籍の編集者でありながら、現在はリアルなまちづくりやプロジェクトマネジメントにまで活躍のフィールドを広げています。

人と人、人とモノ、モノとモノとを組み合わせ、新たな価値や進むべき方向性を指し示す。このような編集者的な考え方を、紙やWebコンテンツの枠を超えてさまざまな場面に応用しているのが、彼らの取り組みと言えるでしょう。

編集力を「はたらく」に活かす5つの活用法

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では、編集力は具体的に、どのような場面で「はたらく」に役立つのでしょうか。3人の話からは、次の5つの活用法が見えてきました。

1.ビジョンを示し、チームをまとめる

何か新しいプロジェクトを始める場合、それぞれの意見を尊重しつつも、最終的には一つの方向性に収斂させていく必要があります。リーダーには「これからどこに向かっていくべきなのか」を指し示すと同時に、ファシリテーターのように振る舞い、メンバー1人ひとりにとってそれが自分ごととして捉えられるようにすることも求められるはずです。

2.リーダーシップやマネジメントに活かす

モリさんは、「いい編集者は、読者やライター、取材対象が気付いていない視点を投げかけて、新たな可能性に気付かせることに長けている」と言います。これをリーダーシップやマネジメントに応用すれば、部下やメンバーのパフォーマンスを引き出し、チームとしての働きを最大化することができるでしょう。

3.文化や流行、ブームを作り出すことができる

社会学には「予言の自己成就」という概念がありますが、編集者は時代に求められる、必要とされるであろうアイデアを先駆けて生み出すことで、新たな文化や流行、ブームを作り出せる存在でもあります。内発的な動機で物事を突き詰めて考えたり、時代が求めるものを熱意を持って探ったりする姿勢が、ビジネスの世界でも結果として、それまでなかった新たな価値を生み出すことがあるかもしれません。

4.さまざまなピースをかき集めてヒントを探し出せる

ビジョンを指し示すために必要なアイデアや考え方を集めるのにも、編集力は役立ちます。「収集する情報に幅を持たせて、すぐには役に立たないけれども自分が面白いと思えるものをインプットするよう心掛ける(モリさん)」編集者的な姿勢が、時に自分でも予想しないアイデアやイノベーションにつながることがあるということです。

5.自分自身をコンテンツ化し、キャリアをひらく

長谷川さんは、「自分自身も編集の対象になる」と言います。自分がどういう人間で、どんなことに興味があるのかをしっかり問い直し、その問いから見つけた点と点を結ぶことで、自分というコンテンツの新たな可能性が生まれます。そうした過程を踏み、自分自身についてよりよく知ることが、「自分らしく働く」ことへの第一歩と言えるのではないでしょうか。

無駄を恐れていては、編集力は身につかない

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セッションを聴き終えた今、私個人としては、「イノベーションをいかに生み出すか」という文脈で語られたモリさん、江口さんの話に、「自分らしく働く」ための大きなヒントがあるのではないかと感じています。

モリさん
すぐに役に立つ、明日から使えるという情報ばかりをインプットしていると、広がりは生まれません。できるだけ収集する情報に幅を持たせて、すぐには役に立たないけれども自分が面白いと思えるものをインプットするよう心掛けるのがいいと思います。それがセレンディピティ(素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること)につながるからです。
江口さん
目先の利益やスピードを最優先に作られたものは予測可能性の域を出ないことが多い。そうやって効率を優先することで省いてしまっているものの中に、自分では気付けなかった価値があるかもしれません。時として、無駄が新しいものを作るキッカケになります。無駄をどう捉えるかが大切でしょう。

雑誌の特集を思い浮かべれば分かることですが、誰もが思いつくような関連性の深いもの同士を組み合わせても、新しい価値を生むようなコンテンツは作れません。一方で、一見関係のなさそうなもの同士の組み合わせは時に、爆発的な面白さを生みます。

自分では無駄だと思っているようなことが、他の人にとっては重要だということもあります。その視点の違いがどこから来るのかに意識を向けるなど、アンテナを広げ、様々な視点を持って世界を見渡すことが、時に誰も思いつかなかったアイデアにつながり、ひいては自分らしく働くことにもつながるのかもしれません。

その意味では、働き方を模索する個人事業主にとっても、示唆に富んだセッションだったと言えるのではないでしょうか。

 

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ABOUT US

元エンジニアで現在はフリーランスの映像ディレクター・カメラマン。 上場企業・ベンチャー・海外駐在・フリーランスと様々な働き方を経験。 旅や最新技術に興味があり、好きな場所で好きな仕事をして暮らしたい。