自分の価値観で生きていますか?自分らしく生きるための「ライフスタイル起業」という選択肢

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自分らしく生き、自分らしく働くーー。誰もが、できることならそうしたいと思っているはずです。業務を効率化して時間を捻出する、転職して好きな仕事に就く、組織から独立して文字通りフリーになる……「自分らしく」を実現するためにできることはいくつか考えられますが、その中で「起業」という選択肢を考えるというのが、今回の記事のテーマです。

起業と聞くと、ソフトバンクの孫正義さんのような、ほんの一握りの優秀なビジネスパーソンにのみ許されたもの、あるいは世の中を良くしようという崇高な思いがあって初めて許されるものだと思っている人もいるかもしれません。でも、必ずしもそうではないのではないかと、等身大のスモールビジネスでの起業を提案する人がいます。

戸田輝さんは、伊藤忠商事、ボストンコンサルティング、グロービスといった企業を経て、自分が好きだった「ワインと旅」をテーマにしたビジネスをする会社を2011年に立ち上げました。今は、ワインイベントやオンライン・ワインショップの企画・運営、戦略コンサルティング、キャンプしながらビジネスや働き方を学ぶ「The Life School」など、複数のビジネスや活動を展開しています。そうやって自分が実践してきた「好きな時に、好きな人と、好きなスタイルで働く」ための起業を「ライフスタイル起業」と名付け、自身が運営する起業塾などを通じて、多くの人に広める活動もしています。

実際お会いしてみると、戸田さんは生き馬の目を抜くビジネス界の住人のイメージとは程遠い、物腰の柔らかい、子煩悩なお父さんの面も持つ起業家です。一方で話す言葉からは、自分らしい生き方とは何か、それを実現するためにはどうすればいいかを徹底的に突き詰めて考えていることが、ストレートに伝わってきました。

ライフスタイル起業とはどういったもので、どうすればそれを実現できるのか。戸田さんにお話を伺いました。

Contents

お金、時間……あらゆる制限から自由になるための起業

そもそも「ライフスタイル起業」とはどういったスタイルを指すのでしょうか。

戸田さん
上場すること、好きなものを広めることなど、起業するからには人それぞれ目的や目標があると思います。「ライフスタイル起業」というのは、そうした目的の中に「自分の人生を自分なりに設計すること」というのもあっていいんじゃないかと思い、僕が作った言葉です。

お金、時間、場所、人間関係、責任……そういったものの制限から自由になり、自分でコントロールできるようになるために起業するのが、「ライフスタイル起業」です。

僕自身、起業する前は会社員として仕事をしていました。当時勤めていた会社は比較的時間の自由が与えられた会社ではあったのですが、それでも平日は原則10時に出勤するというルールがあった。当時は新婚でしたが、妻と一緒にゆっくり朝ご飯を食べる時間がありませんでした。

毎朝10時からミーティングがあるわけでもなく、誰かが待っているわけでもないのに、なぜ必ず10時なのか。もっと優雅な朝を送りたい。だったら自分で会社をやればいいんじゃないかと思ったのが、そもそもの始まりです。

ポイント1:今の仕事は続けながらハイブリッドで起業しよう

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あらゆる制限から自由になると言われれば魅力的に聞こえますが、安定した会社員生活から離れるのに、不安はなかったのでしょうか。

戸田さん

確かに、何の勝算もなしに安定した生活を離れるのにはリスクがありますよね。なので、僕は「いきなり起業するのはやめましょう」と言っています。最初は今の仕事は続けながらハイブリッドで始めて、利益が見えてきたら徐々に比重を自分のビジネスの方へ移していく。完全な独立は本格的に稼げるようになってからでいいということです。会社をやめて新しいビジネスに集中するという考え方もあるのですが、収入がないまま新規ビジネスをやるのは精神的にかなりつらいこともあります。

僕が今も続けているワインのビジネスも、最初は会社員時代に趣味として始めたものでした。もともとワインが好きで、好きな仲間と集まってワインを飲む会を開き会費を集めるようなことをやっていたのですが、続けていくうちにその規模がどんどん大きくなって、やがてビジネスとして考えられるほどになっていったんです。

そこで、勤めていた会社に「起業したいから、給料も半分、働く時間も半分の契約社員にしてほしい」とお願いしてOKをもらった。そのまま片足を会社員、片足を自分のビジネスという状態をしばらく続けていましたが、自分のビジネスで十分稼げるようになったのでそちらに集中したいと思い独立しました。

最近は副業OKの会社も徐々に増えていますし、週末に開催される勉強会やイベントが契機になって、起業に至るケースもあると聞きます。独立を考えるのは、そのようにして植えた種が芽を出し、ある程度育ってからで良いというのが、戸田さんの提案です。

ポイント2:自分が好きなことを仕事にしよう

起業するにあたっては、どんな商材を扱うかが当然、ポイントになってきます。この点について戸田さんは、「自分が好きなことをやった方がいい」と強調します。

戸田さん
起業塾でも、好きなこと、相対的にみて自分が得意なことをやった方がいいと伝えています。かつ、マーケットニーズがあるものを探してやるのがいい。儲かりそうだからといって好きでもないことを仕事にすると、「やらなきゃいけない」という義務感で仕事をすることになり、ライフスタイル起業で一番大事な「楽しさ」がなくなってしまいます。

僕の場合は、好きだったワインという分野に自分の得意な戦略やマーケティングのスキルをかけ合わせてワインイベントというビジネスにすることができました。好きなワインをお客さんと一緒に飲んで、それが仕事になるというのは最高です。

イベントの集客も当時から得意分野でした。ワインイベントを始めた当時はまだガラケーを使っていましたが、パーティや飲み会に参加するたびに出会った人と連絡先を交換し、電話帳の登録制限いっぱいの1000人まで埋まりました。最初のうちはこの人たちに携帯メールで一通ずつ案内のメールを送ってワインイベントに来てもらっていました。そこから少しずつネットマーケティングにシフトさせてきました。

モノが余っている今、お客さんを持っていることの強みが生きる時代になっています。インターネットが十分に普及してきたからこそ、ネットマーケティングの知識を身に付けていることは、とても役立つと思います。

好きなことを仕事にするというのは、多くの人にとって憧れの一つでしょうし、経営につきものの困難を乗り越える強いモチベーションにもなるでしょう。しかし、いくら好きでもマーケットのニーズがなければ商売としては成り立たない。自分の好きなことに市場からのニーズがあるかどうかというのは、どうやって知ればよいのでしょうか。

戸田さん
マーケットニーズの有無を本当に知るにはテストするしかありません。売れるかどうかというのは、マーケットに投げてみるのが一番いい。粗くても小さくてもいいので、販売可能なプロダクトやサービスを作ってまずは少量から売ってみる。企画している商品のWEBサイトを1ページ作って反応を見るという方法もあります。最近では、作る前に売る仕組みとしてクラウドファンディングも一般的になりました。いきなり起業をしないでハイブリッドで始めるということには、自分が始めようとするビジネスにニーズがあるかどうかを知ってから独立できるというメリットもあるのです。

ポイント3:仕組み化して、得意なことだけに専念しよう

戸田さんは起業後、何度か人を雇ったものの、教育をしたり進捗を管理したりなど、人を雇うのは自分には向いていないと感じ、最終的には正社員を雇うことはやめたそうです。

戸田さん
今はイベント運営やマーケティングの作業部分を完全にマニュアル化して業務委託契約で外部のパートナーにお願いし、出た利益のうち決まったパーセンテージをプロフィットシェアで支払う体制をとっています。お金の管理や経理などについても、業務委託先と税理士さんが直接やりとりできるように仕組み化してあるので、僕がやるのは実質、企画とマーケティングを考える部分だけになっています。

戸田さんが徹底して仕組み化を進める背景には、「自分らしく働くには、人は得意なことだけに専念するべきだ」という考え方があります。

戸田さん
僕はもともとビジネスが好き。でも、プロセスを分解すると、その全部が好きなわけじゃないことに気付いたんです。企画したり仕組みを考えたりするのは苦にならないけれど、メールを書いたりお客さん一人一人とコンタクトを取るのは苦手だし、成長してくるとこの部分がボトルネックになる。だったら、好きな部分、コアになる部分だけを残して、相対的に好きじゃない部分は外に出してしまえばいい。

プロセスを細分化し、他の人に任せてもクオリティの落ちないところは任せてしまうことで、僕は自分の価値が出せる部分に専念することができます

個人事業主や一人起業家は、会社員と比べてやることが多い。自分らしく働くには、コアになる部分以外をテクノロジーやアウトソーシングで代替することが不可欠です。ただし、「最初は全て自分でやってみた方がいい」と戸田さんは付け加えます。

戸田さん
じゃないとそのビジネスを理解できないからです。バリューチェーンの上流から下流までをひと通り設計して自分でやってみて利益が出る仕組みを作ってから、それを細分化し、自分がやらなくていいところを外へ切り出すという順番がいいでしょう。

自分らしいライフスタイルって結局何だ?

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戸田さんが自らも実践している「ライフスタイル起業」を、起業塾などを通して外へ発信し続けているのには、現代の多くのビジネスパーソンの働き方に対し、ある疑問を感じているからです。

戸田さん
みんな働きすぎなんじゃないかと思うんです。テクノロジーが格段に進歩して、昔と同じだけの仕事がずっと短い時間でできるようになっている。にもかかわらず昔と同じだけの時間働いているのは、明らかにおかしい。その分だけ、仕事以外の自分のことに使える時間が多くなるはずなのに。

社会人は月曜から金曜まで、朝9時から夕方5時まで働くものだという、20世紀の暗黙のルールが惰性で続いているだけなんじゃないでしょうか。テクノロジーの進歩による効率化で生み出された富は、おそらく企業の利益になっているだけで、個人の人生がより良くなることにはつながっていない気がします。

戸田さんは会社員時代と比べて圧倒的に労働時間が短くなっていて、その分を家族と過ごす時間にあてることができているそうです。その分収入が減るかというと、収入も会社員時代よりも増えているそうです。マイペースで働けるそうした暮らしに満足していると言います。

戸田さん
もちろん時には、そうした価値観が揺さぶられることもありますよ。コンサル時代の同僚が出世していると聞けば、あのままもっと働いていた方がよかったんじゃないかと思うこともあります。いつまで経っても隣の芝生は青い。そうした絶えず流入してくる価値観に対して「俺はこの生き方だ」とぶれずに言い続けるのには、タフネスがいります。

価値観は変わるものです。僕自身だって、3年後には全然違うことを言っているかもしれない。そして、それでいいとも思っています。ただ、人の価値観で自分の人生を生きるのだけは、やらない方がいい

人生は1回しかない。自分らしく生きるためには、その一度しかない人生が今のままで本当にいいのかということを自分に問い続けるしかないんじゃないでしょうか。そうやって、時にはぶれながらも元の位置に戻ってくるということをやり続ける以外にないんじゃないかと思ってます。

 

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