「その情報、本当に必要ですか?」〜WIRED編集長・若林恵さんが語る、”正解”が見えない時代の歩き方

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情報にあふれた時代。望むと望まないとにかかわらず、私たちは毎日、大量の情報を消費し続けています。しかしその結果、本当に私たちの生活はより良いものになっているのでしょうか。

起業家や個人事業主としての視点で見れば、成功のためのノウハウを教えるビジネス本やセミナーは、巷にいくらでもあります。けれども、そうした情報に飛びつくことが必ずしも成功につながらないということは、誰しも感じていることのはずです。まして、その人に固有の「”私らしい生き方”という働き方」の実現には、何ら寄与してくれないでしょう。

私たちは、あふれる情報とどのように付き合えば良いのでしょうか。この時代を”私らしく”歩むには、何が必要なのでしょう。働き方の未来を考えるイベント『Tokyo Work Design Week』内で行われた『WIRED』日本版編集長・若林恵さんのセッション「聴く力〜情報化された情報だけが情報ではない〜」から、そのヒントを探ります。

◎若林 恵
『WIRED』日本版編集長
1971年生まれ、ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学 第一文学部 フランス文学科卒業。大学卒業後、平凡社に入社。2000年にフリー編集者として独立し、以後、『Esquire日本版』、『TITLE』、『LIVING DESIGN』、『BRUTUS』、『GQ JAPAN』などの雑誌に関わる。また、音楽ジャーナリストとして『intoxicate』、『MUSIC MAGAZINE』、『CD Journal』等の雑誌で、フリージャズからK-POPまで、広範なジャンルの音楽記事を手がける。

映像の世紀が終わり、本質が見えない時代になった

「この時代」がどんな時代なのかを知るためには、それ以前、つまり20世紀がどんな時代だったのかを考えることが手助けになるはずです。時代の空気を切り取ってきたメディア『WIRED』の編集長は、20世紀を次のように振り返ります。

若林さん
20世紀は「映像の世紀」と呼ばれ、テレビ、雑誌が拡張した時代です。映像や写真が力を持ったのは、人々の間に「物事の本質は表層に宿る」というコンセンサスがあったことが背景としてあります。

例えば雑誌で職人を特集する際に職人の「手」を撮影するのは、そこに職人性が宿るはずと思っているからです。お見合いにおいて「お見合い写真」が大事だったというのも、そこにその人らしさが映っているとみんなが信じていたからこそです。

映像が被写体の本質を映しているという共通認識があったからこそ、フォトジャーナリズムもグラフビジュアル誌も成り立っていたのです。

しかし、21世紀に入ってそうではなくなってきていると若林さんは続けます。

若林さん
お見合いの話が来た時に、いまや両親世代でも相手のSNSの過去ログを調べます。本質は表層ではなく、データに宿るようになったのです。

雑誌で人工知能やIoT、新興プラットフォームビジネスを特集する際も、ただ写真を撮っただけでは、それはさえない見た目のエンジニアや、ただの炊飯器でしかありません。写真を撮ることでは、本質を切り取れなくなっているのです。

本質は目に見えない時代になった--。セッションの副題にある「情報化された情報だけが情報ではない」とは、そういうことでしょう。

解放され、自由になったことが人々を苦しめる

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以前であれば、メディアが発信する情報は当たり前のように重要なものとして、人々に受け止められてきました。しかし、ここでも共通認識は揺らいできていると若林さんは言います。

若林さん
こうした情報は、メディアの側が何らかの届ける価値があると判断したから届けられているはずです。そしてそのことが市民社会に対して果たしてきた意義は、確かにあるでしょう。けれども、そうした情報は今なお「私」にとって本当に重要と言えるのでしょうか。この問題が表出したのが、今回の米大統領選です。

ヒラリーを支持したメディアが52に対して、トランプは3。しかし、実際にはトランプが勝った。そこにはさまざまな理由が錯綜しているでしょうが、少なくとも一定数の人たちが、毎日一方的に情報を届けてくるメディアに対して強い不信感を持っているということが明らかになったのです。

メディアに限らず、これまでは当たり前のものとして受け入れられてきた「国家」や「会社」といったものについても、コンセンサスが壊れていく時代に差し掛かっていると話は続きます。

それは一面では、人々が誰かから押し付けられた価値観から解放され、自由になったことを意味しています。しかし、自由に選択できることは、人々を幸せにするどころか、逆に苦しめるというのが若林さんの指摘です。

若林さん
選択肢が広がるということは、無限にある選択肢の中から自分にとって何が重要かを判断しなければならないということです。これは、それまで誰かが決めた価値観に従っていればよかった人にとって、非常に困難で苦しいことです。

結婚する人が減っているというのだってそう。「私にはもっとふさわしい人がいるはず」と思っていたら、いつまで経っても結婚なんてできるわけがない。どんなに素敵な人だって、まだ会ったことさえない人と比較されては、絶対に負けてしまいますから。

混迷の時代につけ込む”正解”を携えたリーダーたち

いまや、情報を得ること自体は誰にとってもそれほど難しくない時代になりました。けれども、その分私たちは、どの情報を選ぶかという判断を常に迫られています。場合によっては「情報を取らない」という選択肢もあるはずなのに、多くの人は判断という苦しさを嫌い、誰かが価値があると決めた情報を摂取し続けているということです。

トランプしかり、そうした混迷の時代に分かりやすい”正解”を提示するリーダーがもてはやされるのは、時代の常であると若林さんは言います。

若林さん
世の中が動揺している時に強いリーダーが求められるというのは、かつての日本でもドイツでも同じ。それはイデオロギー以前の問題です。

簡単な話で、人々はみな、不満のはけ口を求めている。そこに「そうした不満はこいつのせいだ」と分かりやすいスケープゴートを作ってくれるリーダーがもてはやされるというのは、自然なことです。しかも、その人が食べ物と安定を保証してくれるというのであれば、なおさらでしょう。

しかし、そうやって現れたリーダーがそれほどいいものだと言えるでしょうか?

企業のアドバイザーを務める機会もあるという若林さんは、経営層からよく「イノベーションを起こすにはどうしたらいいか?」と聞かれるそうです。「そのことが本当に気持ちが悪い」と若林さんは両断します。

若林さん
どこかにいる誰かがイノベーションを起こす方法を考えてくれていて、それを与えてくれるものだと思っている。“正解”なんてあるわけがないのに、あると思い込んでいることが一番の問題なんです。

誰かが示してくれた”正解”に従う方が、自分で判断し続けるよりもずっと楽です。けれども、それで本当にいいのだろうかと若林さんは私たちに問いかけます。

苦しくても「見えないもの」に目を向けよ。そして制御せよ

どんな状況においても、誰にとっても間違いのない”正解”などこの世の中にはない。仮にあったとしてもそれは複製可能ということだから、その人固有の価値にはつながらない。では、そんな”正解”のない世の中を歩くのに、私たちにできることとは何でしょうか。何に目を向け、何に耳を傾ければ良いのでしょうか。

若林さん
AppleのAppleらしさはどこに宿っているのか。それは、情報化されない情報の集積にあるのではないでしょうか。理念、愛……そうしたものが伝わるから、私たちはApple製品に心地よさを感じているはずです。

iPhoneのカーブがああなのは、単にデザイン上の問題ではない。あのカーブがあのカーブであることによる情報性がある。少なくともそれが人工物である以上、作る側はそういうものとして作っている。そうしたものをちゃんと認知し、制御できなければ、固有性のあるものは作れないということです。

どこか外に”正解”を求めるのではなく、内側にある固有性にこそ目を向けなければならない。そしてこの時代、その多くは必ずしも目に見える形、耳に聞こえる形の情報として情報化されているわけではない。求められているのは、情報化されていない情報を「聴く力」であり、それを制御する力だということです。

「自分なりの問いがない人は、本を読んでも意味がない」と若林さんは言います。

起業するにしろ個人事業主として独立するにしろ、「なぜそれをやるのか?」という問いと、それに対する自分なりの答えがなければ、困難を前にすれば結局のところ、どこかで挫折してしまうでしょう。「他の人にない自分の固有性とは何か?」という問いに答えられなければ、競争に敗れ、いずれは消えてしまうでしょう。

今回のセッションは、具体的に「こうすれば良い」という分かりやすい”正解”を示してくれるような内容ではなかったかもしれません。しかし、そのこと自体が最も重要なメッセージだったように思います。

都合のいい”正解”などないのだから、目に見えない情報も含めた自らの固有性にしっかりと目を向け、困難が伴おうともそれを制御する挑戦をし続けること。それ以外に、この時代を生き抜く方法はないということです。

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SoloPro編集長 松田 然 × HEART QUAKE代表 千葉順さん
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