こんにちは! 恋する旅ライターかおりです。本日、お会いしたのはタイの古都・チェンマイでNGO団体「アークどこでも本読み隊」を立ち上げた日本人女性・堀内佳美さんです。
全盲というハンディキャップを背負いながら、「タイの子供たちに本を読む喜びを伝えたい」と、たった一人異国の地でNGO団体を立ち上げた堀内さん。
知人から堀内さんの活動を聞いた私は、「お会いしたい!」という気持ちが抑えきれず、彼女に熱い気持ちをぶつけました。すると、運良く日本に一時帰国されたタイミングで、念願の初対面を果たすことができたのです。
予想通り、堀内さんはとてもエネルギッシュで太陽のような明るさを持った女性。しかし、これまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。堀内さんがタイに渡り、NGOを立ち上げ、活動の幅を広げるまでのストーリーをひもときながら、「困難を乗り越える勇気の出し方」を一緒に学んでみませんか?
〜プロフィール〜 堀内佳美/アークどこでも本読み隊・代表 高知県出身。生まれたときから、目が不自由で、その後完全に失明。国際基督教大学(ICU)を卒業後、2007年に大手証券会社で翻訳家兼翻訳管理者として勤務。しかし国際協力こそが我が道と決め、1年9ヶ月で退職し、2009年にインドのケララ州にある社会企業家を育成する団体、カンターリ・インターナショナル(Kanthari International)のプログラムに参加。2010年2月、タイにて「アークどこでも本読み隊」を立ち上げ、2014年1月にタイで正式に協会としての法人登録を済ませる。現在は、チェンマイ県にあるランマイ図書館の運営や、子どもたちが就学する前に基本的な読み書き計算を身につけることを目的とした、幼時教育センターの運営をメインに行う。アークどこでも本読み隊: http://www.alwaysreadingcaravan.org/japanese/index.php |
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課題を抱えた田舎町の子供たちへ、読書の喜びを届けたい
かおり:私、今年(2017年)の4月にチェンマイを訪れたんですが、ご飯がおいしくて、人はやさしいし、街並みもかわいくて大好きになりました。
堀内さん:生活コストが低くて暮らしやすい街ですよね。でも、タイの田舎町では簡単に本が手に入らなかったり、タイ語を話せない少数民族の子供たちがいたり、いくつもの課題があるんです。
かおり:だから堀内さんは、移動図書館や教育支援などの活動を始められたんですね。現在の主な活動を聞かせていただけますか?
堀内さん:一つは、チェンマイ県プラオ郡にある「ランマイ図書館」の運営とトラックを使った移動図書館の実施です。ランマイ図書館は2012年にオープンし、タイ語、外国語のあらゆるジャンルの本6000 冊、DVD300 本が置かれています。また、チェンライ県にある「太陽の家」ではアカ族の子どもたちを、チェンマイ県の「笑顔の家」ではリス族の子どもたちの教育支援(タイ語学習のサポート)をしています。
かおり:私、チェンマイのツアーで首長族(カレン族)の村を訪れ、幼い女の子たちが織物をして働いている光景を目の当たりにしたんですが、少数民族の子どもたちは学校に通っているんですか?
堀内さん:学校には通っているものの村から離れた場所にあるので、ほとんどの子が寄宿舎に入り親と離ればなれなんです。月に1、2回しか家には帰れません。そして、授業はすべてタイ語です。タイ語を話せない状態で、いきなり小学校に放り込まれる子どもたちの負担は相当なものでしょう。その負担を少しでも軽くするために、タイ語の学習を支援しています。
それにタイ語を理解できないと、本を読むこともできないですし。読書によって自分の世界が広がるという、喜びを知ってもらえたら嬉しいですね。
かおり:田舎町では課題が山積みなんですね。改めて素晴らしい活動だと思います。今に至るまでのストーリーをぜひ聞かせてください!
「みんなができるなら私にもできるはず」新たな輪に飛び込み、生まれた勇気
堀内さん:私がこの団体を立ち上げるに至ったのは、中学校で英語に触れるなかで、海外に興味を持ったことがキッカケでした。英語が理解できることで世界が広がることが、すごく楽しかった。そして高校生になって国際交流キャンプに参加したときに、東南アジアの印象がガラッと変わったんです。
みんな英語がペラペラでコミュニケーション能力が高く、日本人の私たちよりも、どんどんいろんな人と打ち解けていく。それまでは発展途上国というイメージしかなくて、「かわいそう」だと思っていたけど、単なるおごりだったことに気づかされました。
かおり:なかでも、タイに興味を持ったのはなぜだったんですか?
堀内さん:高校3年生のときにアメリカに1年間留学していて、そこでタイ人と友人になり、強くタイに惹かれました。入り口は仏教国で日本と文化が似ていて、親近感を持ったこと。でも深く知ると日本とはまったく異なる面もあり、どんどん興味を持ったんですよね。大学生のときにワークキャンプで初めてタイを訪れたんですが、タイの人たちがすごく親切でフレンドリーで、ガッチリ心を掴まれちゃって。
かおり:私もチェンマイに行って、タイが「微笑みの国」と言われる所以がわかった気がします。片言の英語でもちゃんとわかってくれようとするし、困っている人を見捨てないので安心して過ごせました。
堀内さん:そうそう。たとえばパーティーのような集まりって、私たち視覚障害者は自由に動けないので、ポツンと一人になりやすいんですが、面倒見がいいタイ人は近寄ってきて「一緒に行こう」と手をとってくれます。
かおり:日本人はそういうサポートが苦手ですよね。見て見ぬフリをしがちというか。
堀内さん:そうですね。そういう文化は変えていけたらいいですよね。外に出たときにサポートしてもらえると、私たちはより生きやすくなるので。
かおり:その後は、タイで国際協力の仕事をするためにICU 国際基督教大学で勉強されたそうですが、卒業後に日本の証券会社に就職されたのはなぜですか?
堀内さん:父が病気を抱えていたので、一旦日本で契約社員になったんです。ここで2年弱、翻訳関連の仕事をしていたんですが、どうしても国際協力の仕事をあきらめきれず、インドでの社会起業家を育成するプログラムに参加できることになり退職を決めました。このプログラムへの参加が決まったから、一歩を踏み出す勇気が持てたんです。
かおり:インドってなんとなく過酷なイメージがありますが、知らない場所に足を踏み入れることに恐怖はなかったですか?
堀内さん:不安はありましたが、インド社会に飛び込むわけではなくて、全寮制の学校でさまざまな国から来た人たちと勉強するという目的だったので大丈夫かなって。最終的にはインドでちゃんと人々が生きているんだから、なんとかなるだろうと。
かおり:インドでスキルを身につけたことで、迷いなくNGO設立に踏み出せたんですか?
堀内さん:スキルというよりメンタルが鍛えられましたね。日本ではタイでNGOを立ち上げたいと言うと、「現実を見据えなさい」と言われたりもしましたが、インドで突拍子もないプロジェクトをやろうとしている人とたくさん出会ったことで、考えが変わりました。「みんなもやっていることなんだから、私にもできるはず」だって。
かおり:何か願いを叶えたいと思ったら、同じようなチャレンジをしている人と関わることで、勇気をもらえたりしますよね。私もフリーランスになる前は何の保証もなくなることが「怖い」と思っていましたが、フリーランスの先輩たちに触れることで一歩が踏み出せたと思っています。今は不安よりも、可能性にワクワクする気持ちのほうが強いですね。
「私を支えてほしい」勇気を振り絞り本音を伝えたことで、状況が好転
かおり:堀内さんは熱意と度胸を持って新たな道を切り開いてこられたと思いますが、団体の立ち上げ当初はどんな課題があったのでしょうか?
堀内さん:2010年にタイで団体職員をするかたわらで、「アークどこでも本読み隊」を立ち上げたんですが、とりあえず立ち上げたってだけで、何の形もありませんでした。掲示板やSNSでボランティアを募って、希望者と「どんなことをしたいか」をお互いに話して。結局何にもつながらず、そのままになってしまった人もいます。インドにいたときはバスを買って本を積んで村を回ろうかと考えていましたが、そんな予算はどこにもなくて……。
かおり:その状況をどのように打開していったのか、お聞きしたいです。
堀内さん:企画書をつくってプレゼンを重ねるなかで、徐々に資金を援助してくださる方が現れました。その資金を元手に本を買って活動をして、その実績をSNSで投稿し、ニュースレターを発信する。それに反応してくれた方が新たに援助をしてくれたり、マスコミにPRしてくれたりして、ちょっとずつ活動範囲を広げていきました。
かおり:お金を集めるのは簡単なことではないと思いますが、どのように共感を得ていったのでしょう?
堀内さん:根本的に私はNGOってチャリティーじゃなくて、投資だと思っていて。お金はあるけど時間がなくて社会貢献ができない人たちの代わりに、私たちが社会に還元していく。そういう意味ではセールスとあまり変わりません。私たちの場合は、理念=商品。
アプローチをするときは相手によって伝え方を変えます。男性、女性、若い人、高齢者、それぞれに合った話し方をしないと伝わらないので。あとは、エレベーターピッチと呼ばれる、「15秒~30秒で相手を引きつけ、千載一遇のチャンスをつかむための短いプレゼン技術」を活用しています。
たまたま駅で出会った人とかに、短い時間でパッと伝える。誰が共感してくださるかわからないから、要点をまとめてあらゆる人に語るんです。活動自体に価値があれば、必ず支援してくれる方が現れます。
かおり:すごい行動力ですね!! 徐々に活動家が増えるなかで、文化の異なるタイの人たちとぶつかることもあったのでは?
堀内さん:まだボランティアさんしかいなかったときは大きな問題はありませんでした。ただ、現地の人を職員として雇用し深く付き合うなかで、やはり文化の違い、視覚障害の有無の違いが現れてきて。たとえばタイでは、「リーダーは何でもできる存在」だと思われていますが、視覚障害がある私にはどうしてもできないことがあります。
あとは、仕事をするうえで嫌だと思っていること、疑問に感じていることをリーダーに直接相談せず、スタッフ間で話し合うんですよね。そうすると私との1対1の関係ではなく、雇用主対雇用者という関係性ができあがります。リーダーをチームメンバーだと思っていないところがあって、それが私にはすごくキツかった。
マネージメントに時間を取られて現場から離れていくなかで、みんなに頼らないとやっていけないのに、敵視されているような感じで。だから勇気を出して、こんなふうに本音をぶつけました。
「私は見えないから、どうしてもできないことがある。それに、みんなが普段どうやって働いているのかがわからない。私からは『あれやったの?』なんていちいち聞かないから、自分がやったことを正当に評価してほしいと思うなら、面倒でも言葉で伝えてほしい。コミュニケーションに時間は取られるけど、私はそれでもみんなと一緒に働きたい。みんなもアークが好きで続けていきたいと思ってくれるなら、私のことも支えてほしい」
そこから、ずいぶんと職場の雰囲気が変わりましたね。タイではあまり仕事上のチームワークは重視されていないんですが、だんだんとチームワークが育まれてきた気がしています。
夢を持つにはロールモデルが必要。タイで希望の存在になりたい
かおり:堀内さんがアークの活動をするなかで、一番やりがいを感じるのはどんなときですか?
堀内さん:チーム全体の雰囲気がすごく良くて、それぞれが個性を生かしてキラキラしながら働いているのを感じたときですね。本音を打ち明けてからそういった雰囲気に変わり、日々スタッフの成長を嬉しく思っています。あとは、関わった子どもたちが心から喜んでくれたとき。子どもたちの反応は、大きな勇気になりますね。
かおり:子どものリアクションには嘘がないので、きっとダイレクトなやりがいになるんでしょうね。堀内さんが描く未来図についても、ぜひ聞かせてください。
堀内さん:私自身はずっとアークに身を置くのではなく、タイの人たちに団体を受け継いでもらいたいと考えています。短期目標としては、福利厚生や働き方など団体の仕組みをきちんと整えたいですね。あとは、寄付に頼らずに継続できるような収入システムの構築。
一つ、新しい取り組みとしてボランティアリズムを取り入れているのですが、この事業をもっと伸ばしていきたいです。これはボランティアとツーリズムの掛け合わせで、観光客と山岳民族たちとの触れ合いの場をつくって、お互いの国の衣装を着せ合うなど、通常の観光ではできないようなボランティア活動を提供しています。きっと一生の思い出になる貴重な体験になるんじゃないかなって。
団体を手放したら私自身は、社会から取り残されている人たちに必要なサービスを届けられるような仕事をしていきたいです。たぶん日本ではなく、どこか別のところで。日本は四角四面というか、どうしても窮屈に感じてしまうんですよね。
かおり:私も組織に属していたときはすごく窮屈さを感じていました。でもフリーランスになってからはそこから少し解放されて、自分らしい働き方のカタチが見えてきたような気がしています。
でも、やっぱり不安になる場面も多くて……。とくに目に見える結果が出ないと、何を道しるべにしていいかわからなくなることがあります。言い換えると、自分のスキルや直感を信じることが怖くなるんです。結果がなかなか出ないとき、堀内さんはどうやって乗り越えてきたのでしょうか?
堀内さん:私は団体職員と並行してNGOの活動を始めたので、「NGO一本に絞ればもっと結果が出るはずだ」と思っていました。2011年8月にバンコクからチェンマイに引っ越したタイミングでNGOだけに絞ったんですが、そのときは「軌道に乗せなきゃ」という焦りはありましたね。
でも、その時々でできることをするしかないと思っています。予算がなければないなりに、SNS で記事を書くなどお金を使わずできることもありますし。あとは活動によって子どもたちが喜んでくれることが、一番の支えになりました。これだけ喜んでくれるなら大丈夫だろうなって。
かおり:行動を止めないこと、自分自身や仕事への価値を見出すことがポイントなんですね。最後に、「夢を持つために必要なこと」ってなんだと思いますか? 充実した人生を送るために、「使命感を抱けるぐらいの夢を持つこと」って、何より大事だと思うんです。
堀内さん:身近なロールモデルの存在だと思います。テレビの中の人とか遠い存在じゃなくて、近くに憧れるような存在がいれば、夢を持つことができるんじゃないかなって。そういう意味でも、アークがタイでのロールモデルになれるよう、もっともっと上を目指します。
共感してくださった方は、ぜひさまざまな形でアークをサポートしていただければ幸いです。フリーランスで活躍されている方々とも、これを機にいいご縁が紡げたら嬉しいですね。ご連絡をお待ちしています!!
発する一言一言に強いパワーが宿っている。堀内さんのストーリーをお聞きするなかで、私はそんなふうに感じました。きっと強い想いを持って行動を重ねるなかで、自然と身についたパワーなんだと思います。
今回のインタビューで心の奥底が震えるぐらいの勇気をいただいた私は、ここ最近ライターの枠を飛び出してイベントプロデュースやセミナーの登壇など、自分自身の可能性が広がるようなチャンスをたくさんいただいています。もちろん最初は不安だらけですが、チャレンジのあとには不安が「自信」と「充実感」に変わる。
「勇気を出せば必ず道は開ける」、堀内さんが教えてくれたこの教訓を抱きしめて、私はもっともっと前に進みます。ソロプロを目指すみなさん、一緒におっきな夢を叶えましょう〜〜!!
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