ジュエリーづくりひと筋25年。ひぐちなつこさんの心掛ける、ファンから愛される姿勢とは?

こんにちは。フリーランスのライター・編集者として活動しているえいた(佐藤英太)です。

ぼくの生まれ故郷、新潟県新潟市北区(旧豊栄市)に東京からUターンされたジュエリー職人、樋口奈津子(ひぐちなつこ)さんに、インタビューをしてきました!

お客さんや周りの職人たちからも愛されている、その姿勢とは何なのかも聞いてきましたよ。

〜樋口奈津子 ジュエリー職人〜

1992年に文化女子大学短期大学部を卒業し、千葉県市川市の工房にて6年間、東京都御徒町の工房で19年間ジュエリーづくりを学ぶ。その間「ものづくり」をテーマとしたショップ・アトリエ、飲食施設、ギャラリーが集合するスポット2k540 AKI-OKA ARTISANにお店をOpen。

2016年8月より生まれ故郷の新潟県旧豊栄市へUターンしジュエリー工房の「hinata bocco」を開業。親しみやすい人柄と25年間培った技術は、お客さんや周りの職人たちからも愛されている。

実は、ものづくりが得意なタイプではなかった

えいた
ジュエリーのつくり方をちょこっと調べたのですが、サイズ感の割に、つくる工程がすごい多いなと思いました。
ひぐちさん
多い、多い。あと完成は一緒でも、そこに向けていろんなつくり方があるんですよ。会社ごとにつくり方も違っていて。
えいた
最初はやっぱり難しかったですか。
ひぐちさん
難しかったです。得意な人は完成図を最初からバンッて想像できるんですけど、自分はそれができないタイプでした。つくりながら悩みながら想像を膨らますことはできるけど。
えいた
じゃあ、今の時点から一歩進むにはこういう方向かな、みたいなのを探りながらつくっていくと。
ひぐちさん
そう探りながら。完成図がまた相手によって変わるから、そこが難しい。技術が身につく前に、相手によって変わることもあるから。
えいた
そうか、同じものをたくさんつくるというわけではないんですね。
ひぐちさん
ジュエリーの職人さんもいろいろなんですよ。「数もの」っていって、ひたすら磨くだけの職人さんもいれば、「てづくり」っていって、ちょっと豪華なのを1個1個つくっていく職人さんもいれば、修理だけの職人さんもいる。
えいた
結構いろいろ分かれているんですね。ジュエリーってひとくくりにしても。
ひぐちさん
そうなんですよ。全部できることは珍しくて……でも環境的に全部経験できて、現在は何でも屋さんになりました。笑

東京から新潟へUターン。お客さんのために開業を決意する

えいた
新潟へUターンして開業するにあたって、一大決心みたいなのってあったんですか。
ひぐちさん
きっかけはいろいろあったんですが、新潟にきたのは地元だからですね。開業したのはやっぱりお客さんが一番だったから。お客さんは若い人もいれば年配の人もいるんですが、慕ってもらえてたんです。
えいた
ファンがついてたんですね。お話していて、周りの職人さんたちからも愛されていただろうなと感じます。
ひぐちさん
周りの職人さんはたぶん、ほっとけない、みたいな感覚じゃないですか。笑
えいた
笑。お客さんが一番というのは具体的にはどういったことでしょうか。
ひぐちさん
ジュエリーの会社に就職してもよかったんだけど、お客さんを置いていけなかったっていう気持ちもあって。

今までついてくれたお客様さまが何かあった時……どこに持っていけばいいか悩むだろう、とかいろいろ想像してとにかく裏切れなくて。

えいた
会社員になったら、会社が受注したものしかつくれなくなりますもんね。
ひぐちさん
そうそう。そう思っていたら偶然、同級生から「こんな場所あるよ、1ヶ月ぐらいやってみたら」と、ここのお店を紹介されたんです。

周りの職人さんたちに言ったら「いい話じゃない」ってなって、じゃあやってみようという感じです。

ジュエリーを使う人を思う。手間は惜しまない

えいた
東京でお付き合いのあったお客さんとは、今はどのようなやり取りをされてるんですか。
ひぐちさん
距離は離れたけど、やりとりは今まで通りですね。2k540にあるお店を辞めるって言ったら「この仕事頼みたいんだけど」みたいな感じで声をかけてもらいました。でも半年後とかもっとあとになりますよって言っても「待ちますよ」って。みなさん、私のタイミングでいいからって言ってくれるんですよ。
えいた
なんと。それはありがたい。すごい愛されてますね。何かしらの魅力がないと、そうはならないと思いますよ。
ひぐちさん
お客さんの求めてる以上のものはつくってあげたいなといつも思っています。多分そこが伝わるのかな。
えいた
そういえばジュエリー作りでは、なるべく軽くするっていう風にどこかで読んだことがあります。
ひぐちさん
そう。軽くするにはいろんな意味があるんですけど、まず安くしてあげるために軽くする。金属って重さで値段が決まるので。でもその軽くするためには手間がかかる。

けど日本人の職人さんはその手間をなかなかお金に変えないんですよね。あとはやっぱり重いより軽いほうが使いやすいので。ペラペラにつくるとは別なんです。

えいた
ペラペラだったら壊れやすいですもんね。
ひぐちさん
そうなんです。見えない所を削っていくっていう。でも手を入れるか入れないかも職人さんによって違う。それも技術の差だったり、いろいろなんですよね。

ピンチを救ってくれたのは、東京の仲間たち

えいた
「hinata bocco」の店内には、樋口さんご自身以外の作品も置かれてるんでしたよね。これも東京のつながりの方ですか。
ひぐちさん
そうですね。自分の商品をつくる環境もないところからスタートだったので。でもお店はつくっていかなければいけない。
えいた
箱だけはあるという状況でスタートされたんですね。
ひぐちさん
そう。それでどうしようって焦って、東京に行ったんです。そしたらみんなが、商品はあるからそれは心配するなと。

だから店づくりを頑張れと背中を押してもらえました。みんなやっぱり、商品つくる大変さを痛いほどよくわかっているので。

えいた
ものが小さいと、たくさん数がそろわないと全体をつくれませんもんね。そういうのをみんな痛いほどわかってらっしゃると。
ひぐちさん
そうですね。何か本当にあせって東京行ったんですよね。意味もなく。どうしようって思って、眠れなくなって、ああ、商品ない、でも店をオープンしなきゃいけない、形はつくらなきゃ。

一人だったからやらなきゃいけないことが、いっぱいありすぎて。ほかのことも、数字のことだったり、お店のことだったり、こうやって什器(じゅうき)をそろえたりとか。

えいた
とりあえず東京行こうみたいな感じですか、心境的には。
ひぐちさん
そうですね。でもね、何か行ったら答えは見つかるっていう風に思ってました。みんな、来た来たみたいに迎えてくれましたよ。笑
えいた
2kの方たちとは、普段はどういうお付き合いをされてたんですか。
ひぐちさん
例えば、御徒町(2kの裏側)っていう所に、空気感がちょっと昭和的なジュエリーの問屋街があるんですよ。徒歩圏内でいろんな金具、ジュエリーに関するいろんなものがそろうんです。

そこへ足を運ぶうちに自然と交流が生まれるようになっていましたね。

えいた
なるほど、職人たちが往来する場所があるんですね。
ひぐちさん
でも豊栄では、なかなかそうはいかないですね。

実はそんな面も助けてもらってます。例えば必要なものを全部まとめて買って送ってくれるとか、そういうことを今でもしてくれたり。

みんな勝手がわかってるから、「じゃああそこの何々ね」とかっていうところで、いろいろと助けてもらってるというか。

豊栄へUターンをして、生活リズムが大きく変化

えいた
2016年8月にオープン、これが変わったっていうのは何かありましたか。
ひぐちさん
暮らしのサイクルが人間らしくなりました。東京にいると、夜中に仕事するんですよ。お店閉めてからとか、夜中に仕事をしたりとか。

でもこっちは逆ですね。朝早く起きて、夜早く寝るみたいな感じで。朝日とともに、何かこう人間らしい、ああ、風の音がするとか、空が今日もきれいだなとか、鳥がいるとか。

仕事内容はあまり変化していませんが、そういう意味では大きく変わりました。

えいた
自然と共に暮らしている感じですね。
ひぐちさん
そうなりましたね。東京はお店が高架下にあって、日が当たらないんですよ。だから常に暗くて、空気はどんより淀んでる感じがしてて。

こっちに来たら、もう常に太陽光じゃないですか。

えいた
まさに「hinata bocco」ですもんね。
ひぐちさん
偶然そうなったんですよ。何かね、お世話になった人たちの名前(頭文字)を組み合わせてたら「hinata」って出てきて、「hinata」だったら「hinata bocco」ってつけたほうがかわいいなと思って。

本当はお向かいのレストランのオーナーに名付けてもらおうと思ったんです。ノラ・クチーナとかオラ・ハラクチェって名前なんですけど、全部彼が考えて、いいネーミングだなと思ってたから。

「どう思う?」って言ったら「いいと思う」って言ってくれました。

えいた
お墨つきをもらって。
ひぐちさん
もらって。あえてジュエリー工房という文言はつけませんでした。つけるとけっこう敬遠されがちなんです。ジュエリー屋さん、じゃあ高い、じゃあ入りづらいって。気さくに入ってもらえると嬉しいです。

求める声に救われる

えいた
ちょっと相談みたいになるのですが、ぼく自身フリーランスとしてこの先が楽しみでもあるし不安でもあるんですけど、そういうものは何かありましたか。
ひぐちさん
このお店を始めるまでは不安でしたよ。もう不安で不安で。電話もいろんな人にかけたし、何が正解かがわからないじゃないですか。
えいた
そうなんですよ、何が正解かわからなくて。
ひぐちさん
新潟の他の場所、例えば町中とかでは絶対やろうとかは思わなかった。ここだからやってみようかな、と感じたのはありました。
えいた
いけるっていうものを感じてないと、やっぱり踏み出しづらいもんですもんね。不安はやっぱりどうしてもついてくるんで。
ひぐちさん
そうですね。みんな私を独立心の強い女社長のように思っているけど、みんなから押されて豊栄へ来て、そしてお客さんを裏切りたくなくて始めたのが実のところ。

あとは姉が背中を押してくれました。私があまりにも不安がっているから、「じゃあ私が決めてやる、行けー」とか言われて。

えいた
お姉さまから推進力をいただんですね。
ひぐちさん
あとはお向かいのオーナーが私の電話を、うん、うんって聞いてくれたりとか。

東京には今までのお客さんがいても、ここではまだ誰にも求められていないじゃないですか。多分そういう不安もあったんだと思いますね。

不安がピークで東京にいったときに、お向かいのオーナーが2kに社員さんを二人つれてきてくれたんですよ。

東京へ研修に来てたらしく、帰りがけに寄ってくれたんですよ。

えいた
テンパってるらしいね、と。
ひぐちさん
そう。そしたら、新潟にずっといる社員の女の子が、新潟にこういうお店があったらうれしいって言ってくれたんですよ。

その一言で求める声があると知ってすごく安心しました。

えいた
ひぐちさんを求める声が支えになったんですね。前に進める力をもらったり、支えてもらう力をもらったり、素敵ですね。
ひぐちさん
いろんな人からいろんな言葉をもらったり。

速さも技術。考えるか否かで結果は大きく変わる

えいた
樋口さん自身が淡々と続けてきたのは、お客さんにとっての一番を届けること。
ひぐちさん
そうですね。2kでお店を開く前は、マンションの一室でメーカーさんとの仕事しかしてなかったんですよ。

2010年の12月までは接客なんかもしたことないし、自分の技術の向上しか考えてなかった。

えいた
納期とクオリティとのたたかいですね。
ひぐちさん
そう。あと理不尽なことの対応。
えいた
厳しいですよね。僕も木工房にちょこっと入ってたことがあって、やっぱり厳しいので。

0.1ミリ狂ったらもう組めない精度のものとか、ちょっと焦げたら駄目とか。それで100個とかボツにしたら、売り上げも減るし、怒られるし。やっぱりどの世界でも、量をまずこなすっていうのはあるんですね。

ひぐちさん
やった分だけ全部経験、だから手の速い人は、その経験値が必然的に上がっていく。でもね、上手な人ほどちょっと怠け者だったりする。
えいた
僕はスピードを伴ったまま量をこなすのがすごい苦手なタイプで。以前取り組んだ編集講師の仕事がそうだったんですけど、10人くらいの生徒から届く解答に対して、スピードを保ちつつフィードバックを返していくのが本当に苦しくて。
ひぐちさん
それも技術なんですよね。速さも技術なんです。メーカーさんとやってたときは、毎日そことたたかってました。もう本当に、いつも追われる夢しか見てなかったな。完成したと思って目が覚めたらできてないみたいな。笑
えいた
スピードってどうしたら身に付きますかね。
ひぐちさん
数やって、あと考える。ジュエリーづくりでは物の置き方も大事って言われましたね。作業をする際の手の動きを考えて配置する。
えいた
なるほど、手の動きが小さくなればその分が時間短縮になりますね。
ひぐちさん
そう。そういう一つひとつが、この小さいトコロ(ジュエリー)に集約してるっていうか。だから考えないと速さも速くならない。
えいた
編集こそスピードだっていうふうに先輩は言っていました。速くやろうとすると意識が変わり、注意の向く点が変わってくるという風に。
ひぐちさん
そうだと思う。個人差はあるとしても、それを考えるか考えないかで大きな違いがでてくると思う。

不思議と続いてるジュエリーづくり

えいた
最後にお伺いしたいんですけど、そういう苦しいことがありながらも、ずっと続けてこられたのは、何が大きいですか。
ひぐちさん
実は私、昨日それを考えてたんですよなぜか。向いているわけでもないのに、でも唯一続けてるなと思って。何でだろうってちょっと思ってます。
えいた
まだ答えはでてないんですね。
ひぐちさん
これでご飯食べていかなければいけないっていうのもあるし、でもお客さん、今は本当にお客さんの喜んだ顔を見れるのが一番好きだから。
えいた
不思議と続いてるっていう感じでしょうか。
ひぐちさん
そうですね。本当に自分で自分を追い込んじゃうこともあるから苦しいけど、でも一回も辞めようとは思わなかった。苦しいことが辞めたい気持ちにはつながらなかったなあ。だからやっぱり好きなのかな。
えいた
不思議ですね。
ひぐちさん
不思議なんですよねー。

丁寧な仕事と愛されるキャラクターで、東京にたくさんのファンがいるひぐちさん。お話を伺っていてぼくもファンになってしまいました。

つながりを大切にするというよりも、目の前の一つひとつに丁寧に向き合うことが結果として素敵なつながりを生むのだと思いました。

駆け出しフリーランサーとしては「速さも技術」という言葉に、自分の課題が見えてきそうなインタビューでした。

速さの仕組みを解明して、ソロのプロフェッショナル(ソロプロ)としてのレベルを上げていきたいです!

 

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