”自己発信”のハードルを下げ、本業に注力できる環境を作りたい。「とりあえずHP」運営 佐野 彰彦さんの想い

日本にある全ての会社の中で、”大企業”と呼ばれる組織の割合はどのくらいか知っていますか?

総務省の企業規模リサーチよると、約0.3%です。

そして、残りの中小企業の中でも小規模事業者と呼ばれる、社員数が1人から数人の会社(業界によって定義が違う。フリーランスも含む)は約87%

そんな少数精鋭で事業を担っている事業者が、安価にスピーディーに自分の言葉で情報を発信できる環境を整えたいと語るのが、「とりあえずHP」を運営する株式会社 それからデザイン 代表の佐野 彰彦さん。

今回は、誰でも簡単にホームページを作れるサービスがどのようにして生まれ今まで1万6000人以上が利用しているサービスへと成長したのか、そしてユーザーにとってどんなメリットがあるのかなどをSoloPro編集長のもゆるが伺いました。



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身近な人の声からスモールビジネスにあったホームページを開発

もゆる:佐野さんが代表を務める株式会社 それからデザインは、企業からの依頼を請けてブランディングデザインを提案することを強みにしている会社とお聞きしています。

どのような背景があり、スモールビジネスのオーナーを支援するWebサービス「とりあえずHP」を立ち上げたのでしょうか?

佐野 彰彦さん(以下、佐野):それからデザインは設立当初から、中堅企業や比較的大きな規模の企業からご依頼をいただき、Webデザインやブランディングを受託する仕事をしてきました。一方で知人や友人など身近な人からホームページが欲しいという声を聞くことも多くなってきたのが立ち上げ理由です。

佐野 彰彦(サノ アキヒコ)

クリエイティブディレクター、デザイナー、コピーライター、音楽家、DJ、株式会社それからデザイン代表/TURN harajuku主宰主な著書に「経営者のためのウェブブランディングの教科書」「ウェブ担当者1年目の教科書」(共に幻冬舎)がある。2015、2016年グッドデザイン賞受賞。


もゆる:具体的にはどのような依頼があったのでしょうか?

佐野:例えば、義理の母から(笑)趣味ではじめたフラダンス教室で生徒を募集するためのホームページが必要だから、つくってほしいと頼まれたり。他にもカフェを運営している友人など身近な人でスモールビジネスを展開している人のニーズや課題感に応えるにはどうすればいいか、と考えて。

もゆる:ユーザーになりうる身近な人の声を聞いて立ち上げたサービスなんですね。

佐野:はい。大きな企業から依頼を請ける受託の仕事は、細かくペルソナ(ターゲット)設計をして、時間もお金もかけてブランディングとデザインを手がけています。

しかし、スモールビジネスを営む人は、そのようなやり方では合わない。自分自身でスピーディーに、自分の活動を発信できるような環境が必要なんだと気づいたんです。そこで、自分で簡単にホームページがつくれる、自分で発信できるというサービスを開発しようと考えました。

もゆる:受託の事業でお金や仕事が回っていると、なかなか自社プロダクトの開発に踏み切れない企業も多くあります。いわゆる”受託の罠”にハマった状態ですが、御社はそこをどう乗り切りましたか?

佐野:そうですね。一気に舵をきるのは難しいので、大手や中堅企業からご依頼いただいた仕事も続けながら、サービス開発に充てる時間を確保して、なんとかやりくりしていました。はじめは、私がサービス全体の企画とデザイン、そしてプログラマーの2人だけで部活のようなノリでスタートしました。

もゆる:なるほど、何事もまずはやってみるのが大事ですよね。

佐野:はい。私自身ももともとフリーランスのデザイナーを経験していましたし、周りにも独立や副業など、スモールビジネスで活躍している知人が何人かいました。その人たちの仕事のやり方を分析していたら、以下の①〜④のサイクルを回していることに気づいたのです。

①立ち上げ期:早くはじめる
②手ごたえ期:知ってもらう
③成長期:磨き上げる
④安定期:少し見直す

ですので、何かスモールビジネスでやりたいことがある人は、まず「早くはじめる」ことが大切です。できるかどうか、成功するかどうかを悩むより、気軽にチャレンジしてみる。

「とりあえずHP」では、そんな環境をプレゼントしてあげたいという想いで、サービスのコンセプトを「気軽につくれる、素敵なホームページ」としています。

もゆる:ホームページはそれを作ることが目的ではなく、ホームページがあることで自分のビジネスを知ってもらったり、商品やサービスを届けたい人に情報を届けるためにありますからね。

佐野:日本の会社の約0.3%にあたる大手企業の仕事も手がけています。その分野で必要とされているのは綿密なブランド戦略や高品質なデザインを提案できる専門家や専門チームです。

片や、残り99.7%を占める中小企業や小規模事業者に必要なのは、自己発信が可能な環境だと思っています。だからこそ「とりあえずHP」は、安価にスピーディーにその環境を整えてあげたいという想いで運営しています。

もゆる:組織の規模でニーズが違いますよね。図示化していただくとととてもわかりやすいです。さすがデザインのプロですね。

自分の人生からビジネスがはじまっている人を応援したい

もゆる:「とりあえずHP」のユーザー層や機能面の強みも知りたいです。

佐野:2008年のサービス開始から、大きな方針のズレはなく、副業や起業もしやすくなり、ニーズは年々増えています。スモールビジネスの市場もこれから拡大していきそうですよね。

もゆる:このメディア「SoloPro」でも、個(ソロ)のプロフェッショナルをテーマにいろいろな人を取材していますが、サラリーマンや個人事業主に関わらず、個人がより活躍しやすい時代になってきたことを感じます。

「とりあえずHP」はどんなスモールビジネスで利用されることが多い傾向にありますか?

佐野:利用者で多いのは小さなお店や教室を営まれる方、学習塾、士業など個人事務所を運営している方などですが、いろいろな業種で、地域も日本全国まんべんなく利用されています。

もゆる:簡単にホームページがつくれるサービスは、他にもあると思いますし、「Wordpress」でホームページを作る方もいます。他のサービスと機能面の違いはどんなところにありますか?

佐野:正直、ツールでできることの差はあまりなく、今後もある程度のことはどのサービスでもできるようになると思います。

そのため主な違いは2つで、サポート体制とビジョンです。

もゆる:具体的にはどういった?

佐野:まずサポート面ですが、ユーザーからの問い合わせには何度でも丁寧に対応し、質問内容はカルテ化して社内で共有し、わかりやすいQ&Aや動画マニュアルを用意しています。また、ユーザーの管理画面でもなるべく難しい言葉や英語を使わず、感覚的にホームページを構築できるようにシンプルな機能に特化するなどの工夫をしています。

もゆる:「とりあえずHP」は本当にシンプルでわかりやすいですよね。私はWordpressでホームページを作っているのですが、プラグインを変えたり、バージョンをアップデートすると動かなくなったり……トラブルがあるとGoogleで事例を検索して自分で直さないといけないので、ある程度の専門知識やITリテラシーが必要になります。不明点があったら問い合わせができるととても助かります。

佐野:ただ、私たちは他のホームページソフトやサービスを競合とはあまり思っていません。他社はソフトをより良くすることに注力していますが、私たちはスモールビジネスをデザインで包括的に支援したいのです。

もゆる:というと?

佐野スモールビジネスをしている人たちが自分たちのやりたいことで幸せになる。そのための手段を提供していくことが私たちのビジョンです。

そして、それを具体化したサービスのひとつが、「とりあえずHP」です。その他にも、私たちが得意とする「デザイン」を起点としたスモールビジネス支援のサービスをどんどんつくっていきたいと思っています。

小規模事業者の方々と話していて、自分のやりたいことと社会や市場から求められることが一致する仕事をできることが幸せにつながると感じました。私はデザイナーとして、そんな仕事をしたい人たちの伴走者になっていきたいと思っています。

もゆる:私も小規模事業者の1人なのでとてもわかります。旅や移動をしながら働いているのも、それ自体が自分のやりたいことですし、その体験を情報として発信をすることでアクションできる人を増やしたり、地域の魅力や課題感を伝えソリューションを提供したいという想いがあります。

このメディア「SoloPro」もその1つで、個人の働き方の選択肢やノウハウを伝えることで、自分も何かしたいと思っている人にきっかけを届けたいという想いで運営しています。

佐野:自分の想いがこもったストーリーを持って情報を発信している人は、共感を呼び仕事になっていきますよね。自分の人生体験からビジネスがはじまっている人たちは、そのビジネスも成功しやすい傾向にあると思います。

ユーザー数16200人を突破。これからのこと

佐野:「とりあえずHP」では、年1回ユーザーを対象にエピソード大賞を開催しています。自分の人生とリンクしたビジネスを行なっている方々がその想いを発表する場です。ユーザーに感謝を伝える会のつもりではじめましたが、こちらの方が得るものが大きいんですよ。感動して泣いてしまうこともあります。

もゆる:いろいろなエピソードがありますよね。受賞者のコメントを読んで、私もウルっときました。

「とりあえずHPエピソード大賞2018」

もゆる:ユーザー数は16200人を突破しました(2019年6月現在)。今後どんなことを考えていますか?

佐野:ホームページはマーケティング、ブランディングのツールです。今後は外部のデザイナーやライターなど想いを共有できるクリエイターにも呼びかけて、日本の事業者の99.7%と大半を占める小規模事業者や中小企業を助けるパートナー制度を検討中です。

また、原宿にオフィス兼クリエイティブラウンジ「TURN harajuku」を運営しているので、場づくりと受託事業、そして「とりあえずHP」と、全部の事業がリンクしたらさらに面白いことができると思っています。

もゆる:今から楽しみです。ありがとうございました!



 

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